第7話





リビングでの話をしているところで飛翔は時差を計算し、ひとまずそこを後にした。

国の位置がわかっているのだから、時差を計算するのはたやすい。

一応、先ほどメールを送っておいたが顔を見て挨拶をしたほうがいいだろうと思っているのだ。


『よう』

「仕事はいいのか」

真顔でモニタの向こうの炎狼に飛翔が問う。

『お前が連絡するって言ったんだろうが!』

苦笑して飛翔は「そうだがな」と返す。

『...終わったのか?』

「ああ、終わらせた」

少しスッキリとした表情の飛翔に炎狼は表情を緩める。

彼女のこれまで歩んできている人生をそれなりに見てきている。大変、と一言で片付けるには障害が多かったと思う。

『お疲れさん。近々ウチに遊びに来いよ。ジジイが気にしてたし、お袋も』

「そうだな。さっき母様に勧められた。体が楽になったら各国を回ってみてはどうか、と」

『いいなぁ、おれも行きたいなぁ...』

心底羨ましげに言う炎狼に飛翔は溜息を吐いた。

「国のために身を粉にして働け。それでなくとも、お前はサボってばかりだったろう」

飛翔の言葉に『ひでぇ!』と炎狼は声を上げる。

「そういえば、ホムラは?」

『こっちに居座ってるぞ。帰る気がないらしい。別に邪魔になんないし、いっかなって。ハヤテは?』

「私を守ると息巻いてる」

『当分は助かるだろう、それ。...風真は?』

「面白くなさそうだな。そもそもに合うはずがない」

それぞれの種族の属性を考えれば当然のことだ。ハヤテは神族、風真は魔族。それぞれが相対する位置にある。

ただ、彼らには『飛翔を尊敬している』という共通点があるため、何とか折り合いも付けていくのだろうと炎狼は何となく思った。


炎狼との通信を終えてからも、各国との時差を計算しながら全員に連絡をした。お陰で、殆ど寝ていない。

短い睡眠には慣れていたはずなのに、時の国で長い期間療養をさせてもらったこともあり、眠気があることに多少の戸惑いを感じている。

「あら、珍しく眠たそうね」

愉快そうに風花が言う。

「ほぼ貫徹してしまいましたから」

欠伸をかみ殺して飛翔が返した。

「みんなに連絡?」

朝食の準備をしながら凪が言う。

「ええ、何通もメールを貰っていたので。言葉を交わしたほうが良いかと思ったんです」

飛翔の言葉に「そうかもね」と凪は頷いた。


朝食を済ませて昨日の約束通りに書店に向かった。

「おはようございます」

声を掛けると中から店主の妻が出てくる。

「ああ、飛翔さん。ありがとうございます」

そう言って彼女は飛翔を家の中に招き入れた。

案内された部屋には数人、見たことのある人たちが座っている。

「昨日、嬉しくて他の人にも話したんですよ。そしたら、みんな教えてもらいたいって」

「私は構いませんよ」

飛翔が言うと、彼女の言葉を息を潜めて待っていたほかの女性達は安心したように息を吐いた。

そして、飛翔の隣に立つ少し無愛想な男、ハヤテを怯えた目で見る。

「害はありません」

飛翔が請け負うが、やはり神竜であるがゆえか、ハヤテの纏う空気は威圧的に感じるものも居るのだろう。

それを自覚しているハヤテは、

「上に居ます」

と言って窓から出て行った。

「上って?」

「屋根の上か、空でしょう。大丈夫です」

飛翔はそう言って勧められた椅子に座った。

教材と言うものもなく、ひとまずどういったことを学びたいのか、と言うことを確認する。

あまり高等すぎるものを教えても必要のないものだった場合はお互いに時間を浪費することになるのだ。

彼女たちが学びたいのは、計算と作法と言うことがわかった。

「作法は、学問ではないのですが」とひとりが遠慮がちに言った。

「必要なことではありますね。わかりました、同じ日に両方、というのは時間的にも少しきついでしょうから、日を決めてお教えしましょう」

飛翔の言葉に彼女たちは頷く。彼女たちも都合があるだろうから、先に授業、というほど大げさなことではないが、計算か作法かがわかっていれば都合のつけようもあるだろう。

ひとまず、目指しているレベルを確認し、その日は特に教えることなく解散となった。









桜風
12.2.12


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