第9話





片づけがあるため、残った飛翔に空音が紅茶を勧める。

手を止めてその誘いを受けた飛翔に空音が口を開いた。

「先ほどの、軍の方」

「鳳貴ですか?」

飛翔の返した言葉に空音は言葉を失った。

「あの」と何か言いたげに口を開いたが、言葉が見つからないらしく「何でもありません」と彼女は俯く。

「風が同じでしたから」

飛翔の言葉に彼女は顔を上げた。

「『風』ですか?」

「ええ、風です。鳳貴と空音様の纏う風が同じでしたから」

「でも、わたくしは能力者ではありませんよ」

彼女が覗うように言う。

「能力者と言うのは一定以上の能力を持っていて、尚且つそれが外に出ている者をいいます。風の民である以上、潜在的にその力は誰もが持っているものです。そして、能力者はそれを感じ取れる。相手の能力が微量でも、感じ取る能力者の力が強ければそれを拾うことが出来ます」

飛翔の言葉に彼女は感心したようにひとつ頷いた。

とりあえず、飛翔はこの国で最も力の強い能力者だ。神に認められた存在である以上そういうことなのだろう。

つまり、この飛翔はこの国の全ての者の風を読み取れると言うことだろう。

「疲れませんか?」

「不意に吹き込んでくるものだけを感じるようにしていますから。全部読みながら歩くと、確かに疲れます」

苦笑しながら飛翔が応じた。

「吹き込む、とは?」

「感情が昂ぶるとやはりその人の纏う風は荒れてしまいます。それが時々吹き込んできます。先ほどのあなたのように」

飛翔の言葉に彼女は恥じ入るように俯いた。

「鳳貴は、優秀ですが。少し難しいでしょうか」

「『難しい』とは?」

「家の方針が彼の考えと少し合わなくなっているようです。多少、私にも責任がありそうな雰囲気ではありますけど」

「...そう、ですか」

そう呟いた彼女は飛翔を不思議そうに見上げた。

「事情を聞こうとは思わないのかしら?」

彼女の疑問に飛翔は苦笑を返す。

「誰かのプライベートを聞こうと思えば自分のことも話さなくてはならない。私は、この国のすべての人を騙していましたからね。誰にも自分のプライベートを話すわけにはいかなかった。だから、誰かのプライベートについて聞くことに慣れていないんです。それに、母親にも、人は大小様々な事情を抱えているのだから、無闇やたらと聞くものではないと躾られているものですから」

事実だが、少しだけおどけて返すと彼女は微笑んだ。

「素晴らしいお母様をお持ちなのね」

「ええ」と飛翔は頷いた。

「昔話をしたいと言う人の話は聞いてくださるのかしら?」

「勿論」と頷いた飛翔に「ありがとう」と彼女は返して紅茶を飲んだ。









桜風
12.3.11


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