第11話





戦争がひとまず終結してから、初めての会見のために炎の国の代表、頭領が風の国にやってきた。

風の国の代表である帝と炎の国の代表である頭領がお互い固い握手を交わす。

「ようこそおいでくださいました」

「お招きいただき、光栄です」

「先ほどお着きになってすぐに会談と、忙しなくて申し訳ない」

「いえいえ、帝もお忙しいのですから」

そんな会話を挨拶代わりに交わす。


しかし、頭領は実はその前日に風の国に入っていた。

「側近に迷惑をかけるな...」

半眼になってそういったのは炎勇だ。

「兄上に言われたくありません」

と秀炎が返した。

お互い机を挟んで酒を酌み交わしている。秀炎は置手紙をして抜けてきたのだ。それを見抜けない側近はまだまだこの男の性格が分かっていないらしい。

「兄上。明日の会見のときに、帝に飛翔をウチにくださいって言おうと思います」

ピクリと炎勇が反応した。

「仕事、してないんですよね?炎狼が先日飛翔から聞いたといっていました。軍は辞めた、と」

「ああ。だが、今は塾のようなことはしているみたいだ。相変わらず庁舎内の男達には煙たがられている」

溜息混じりに炎勇が言うと

「塾ですか?」

と秀炎は興味を示した。

「ああ。女性は、学校への進学は制限されているが、塾は好きにして良い。実際、資産家の娘は最低限の教育として家庭教師からの教育を受けていたりする」

「なるほど、法の網をくぐったんですね」

「張っていた網でもないがな」

呆れたように炎勇が言う。張っていない網に掛からなかったらやっぱり文句を言われる。全く難儀なことだ。

「塾かー...飛翔がいなくなると困るんですか?」

「さあな。人数が増えたからと妻と凪も顔を出しているらしい」

「姉上はそういうの好きそうですよね」

愉快そうに言う秀炎に対して「ご明察」と投げやりに炎勇が言う。

「兄上は反対なんですか?姉上たちまでそういう教育に参加するのが」

「教育に参加することに対して俺が反対すると思うか?非公式なのが納得いかないだけだ」

「いっそうちに帰ってきませんか、兄上。一家揃って」

秀炎の言葉に炎勇は再び半眼になる。

「冗談です。兄上に戻って来られたら争いの種になります。飛翔は、やっと正しい性別を公表してもらえたので安心して迎えることが出来るんですから」

「炎狼の人望は、さすがだな」

クツクツと笑いながら炎勇は秀炎の杯に酒を注ぐ。

「特に市井の人気はダントツですよ。ま、あれだけ屋敷を抜け出して市井をウロウロしてたんです。人気がない方が問題です」

肩を竦め、溜息混じりにそういった。

炎狼は市井の者達に人気がある。そして、飛翔は反比例してあまり人気がなかった。それは、飛翔が炎狼の地位を脅かすと思われていたからだ。

しかし、炎の国の頭領は男しかなれない。つまり、飛翔は女性で、その権利がない。それなら、飛翔は市井での受けは悪くない。彼女が敬遠されていた理由は『男』という一点だけだったのだ。

秀炎はグイと杯を傾け、今度は炎勇の杯に酒を注ぐ。

「それで、爛との婚姻は許してやるのか?そっちはそんなに身分がどうこう言わないだろう?」

風の国の王族はそういうのがややこしい。血筋がどうこうという話が必ず着いて回るので、結構血が近かったりするらしい。それを聞いたときには炎勇は驚いた。

「爛には悪いのですが、人参にさせてもらってます」

「ま、そう言うのがないと動かんだろうな炎狼は」

「誰に似たのやら」

「先代だろう。先々代からそんな話を聞いたことがあるぞ」

「あ、やっぱりそうですか。父上は笑いながら自分でそれを認めてました。あ、そうそう。父上が一番飛翔のわが国入りを熱望されているんですよ」

「面倒なのに惚れられてるな」

苦笑して炎勇が言う。

「貴国は、何故飛翔の貴重さに目を瞑られているのですか?」

「ひとりのために法を変えるのはやはり難しい。何より、俺の娘ということが特に障害になっている」

溜息を吐いた炎勇に秀炎は哀れみの視線を向けた。

「失礼ながら、貴国に外交は無理かと思いますけど」

「ははっ、同感だ」

投げやりに炎勇が言う。

「まあ、他国がどの程度の人材を持っているのかが不安ではあるが、少なくとも、炎の国の頭領には敵わんだろう。手加減をしてもらえると助かる」

「こちらに牙を剥かなければ、兄上もいますし勿論友好的な立場を取りたいと思いますよ。今の帝はあまり敵には回したくないですし。あの人も食えない」

「そりゃ、お互い様だ。きっとな」

呆れたように炎勇が言うと

「兄上にそういわれるとは、光栄の極みです」

にこりと微笑んで秀炎はそういった。









桜風
12.4.8


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