第12話





会談の終わりに頭領が、彼にとっての今回の訪問における最も重要な事項を口にした。

「ところで帝。聞いた話によると、青の大佐は退任されたとのことですが...」

帝は頭領に気付かれないように、一瞬だけ目を眇めた。

「ええ、本人の強い希望によります」

「では、わが国に招いても貴国の政治には干渉することにはならないということですよね」

ざわっと室内の空気が揺れる。

頭領の言葉に焦りの色を見せる側近としめたと野心を燃やすような表情をする者。両者がその場に同じ数だけいた。

「それは、私が口出しをするべきことではありません。一国民がどのように考え、行動するか。私が命じることではありませんからね」

帝が言う。

「帝...っ!」

焦りを含んだ声でそれを止めようとする者がいたが、それは黙殺された。

「先ほどの議題の一つ。貴国とわが国との間の交流の充実。その中に互いの移民の受け入れの資格審査の軽減化などを提案させていただきましたが、その第一号になるかもしれませんね」

頭領がそう言って話を終わらせた。

「では、とても有意義な時間を過ごさせていただきました」

そう言って彼は立ち上がり、帝を止めようとした彼に不敵な笑みを浮かべて退室した。


ドアが閉まるのを確認して彼が「帝!」と声を荒げる。非常に珍しい。

「これが、最後の機会だと思いなさい」

静かな帝の声音にはそれ以上の反論を許さないという意思が見える。

帝は立ち上がり、「では、後のことは頼む」と傍に控えていた大総統である炎勇に声をかけて自室に戻っていった。

「大総統!」

今度は炎勇に訴える。

「そうは言ってもな。帝が仰ったように飛翔を止める術はない。あれの意志に任せるしかないんだ」

「ですが...例えば、風の勇者だから他国への移住を禁止するというのは?」

「勇者の方が、国の代表よりも基本的に身分は上になるが?どうやって命じるんだ」

神の使いである勇者は国の代表よりも位は高い。国の代表は太古の昔それぞれが神によって選ばれたといわれている。

つまり、自分を選んだ神の代行者である勇者にどうやって命令するのか。

「お前が帝に何かを命じるのを同じだ。できるのか?」

「で、では。一国民である飛翔に対して他国への移住の禁止を命じるのは?」

「理由は?」

そういわれて黙る。結局『勇者』ということに返ってくるのだ。

「先ほど帝が仰った言葉の通りだ。これが最後のチャンスだ。国が、政治が『女』と言う存在をどう見るかというな。頭領も無理矢理連れて行こうとは考えていない。あくまで、勧誘はするが飛翔の意思による移住しかありえないんだ」

肩を落とす部下の肩をポンと叩いて炎勇は会談室を出た。


「おい空人」

背後から声をかけられて振り返る。黒の中将、空也だった。

敬礼を向けると適当に返礼された。

「さっきの、面白かったなー」

「面白がってた人はあの中にどれだけ居たでしょうね...」

呆れ口調で返す空人に「俺くらいだろうな」と空也が返す。


先ほど、尉官以上の定例会議が開かれていた。

その中で、赤と黒が他国への進軍を提案した。

白と青が盛大な溜息をついたのは言うまでもない。忙しいのだから、赤と黒は黙ってろ、と言外に言っていた。

そして、飛翔の処遇の話になった。

「あれを先に他国に入れておき、混乱させて落とす手があるではありませんか」

「いや、裏切られる可能性もある。何せ、混血だし我々に翻意がないとも言い切れない」

今更何の話だ、と空人は欠伸をかみ殺してその時間を堪えた。

飛翔に翻意とは何だ。飛翔はこれまですべて自分の意志に基づいて行動している。

彼女は言っていた、「この国を守りたくて軍に入った」と。

だから、おそらく他国から勧誘されても彼女はこの国からは出て行かないだろう。

飛翔がこの国からいなくなれば他国に付け入れられる可能性がある。他国に勇者がいてこの国に勇者がいない。そうなればまず最も弱体化しているこの国を軍事的に狙うことは可能だ。

飛翔がこの国を出て行くときは、この国を見限ったときだろう。

――飛翔が、見限る。

ぶるりと空人は震えた。このままだとそんなに遠くない未来にそうなりそうだ。


結局、飛翔は使えないと言うことになり炎に行きたければ行けばいいではないかと赤と黒は両手放しで喜んで終わった。

全く、此処最近の定例会議は本当に時間の無駄だと思えてならない。









桜風
12.4.22


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