第13話





執務室に戻ると口論の声が聞こえた。

「おい、騒がしいぞ」

空人が言うと東風が楽しげに寄ってきた。

「いやー、子供の口喧嘩って何か微笑ましいな」

「五月蝿いだけじゃん」

と嵐が言う。

颯希と、先日の再編で赤にいた西風(ならい)がぎゃんぎゃん吼え合っていた。

「何についてああなんだ?」

「飛翔のこと」

その一言で納得した。

颯希は飛翔を恩人として慕っているし、赤にいた西風は例に漏れず『女は価値ない』という考えがあるようだ。

元々、この隊に来るのも物凄く渋ったらしい。

何せ、女に指揮を任せていた唯一の隊だ。そんな不名誉な隊に自分が組み込まれるなんて真っ平ごめんだ、ということで散々ごねたらしいが、彼の生家はそんな権力のある家ではないので、結局彼の言い分は汲んでもらえなかった。

渋々この隊に来たらウザイくらいにあの女を慕っているちびっ子がいるのでそれが一々癇に障り、この口喧嘩は此処最近の名物となっている。

はぁ、と溜息を吐いた空人に「じゃ、いつものお裁きよろしくー」と東風がいう。

ゴツン、と大きな音が2つ。

「いい加減にしろ!ここは子守の場ではないぞ!!」

「空人さん!」

「はいはい、女の尻に敷かれていた腰抜け隊の後任隊長様」

皮肉の内容が本当にガキだな、と思って空人は溜息を吐く。

「んで、今日の定例会は?」

報告事項は全員に通達し、空人は自分の席に着く。隊長室はあるが、あまり使わない。

「飛翔は結局どうするってのは、空人聞いてる?」

「いいや。あいつ昨日から不在らしいしな」

「あっれ?塾に泊り込み?」

既に知らない人はいない状態になっている。

「いいや。旅行だと」

「どこに?」

「各国。まあ、巻き込まれたくなくての旅行だったらしいが、水以外は間違いなく巻き込まれるぞ」

空人は苦笑した。

飛翔は各国の友人達に礼を言うために旅行をすることにしたらしい。

まだ国同士の間の行き来について詳細が決まっていないので、今のドサクサのうちに済ませてしまおうと思ったようだ。

風竜とともに行動していれば飛翔の正体は、彼女と会ったことがない人物でも察することができるだろうとのことで、殆どノープランで出発したと聞いた。

しかし、飛翔は知らなかった。

昨日、水を除く他の5国からも飛翔を自国に、という申し入れがあったのだ。

水は聞くところによると、風と同様に女性の政治参加が認められていないので、申し出をしたくても出来ない状態なのだ。

「んで?上は危機感ないの?」

「他国に攻め入るには非常に都合が良いとかそんなことを言っていたぞ」

「うわっ!俺でもわかる。バカだ」

東風が笑う。

「何故です。好機です!」

クソ真面目な顔でそういったのは西風だ。

「なんで?」と東風に聞かれて眉間に深い皺を刻む。

「飛翔を他国に入れて、混乱を起こさせてそれに乗じて攻め込めば」

「飛翔がそれを是とするならな。鼻で笑ってお終いだぞ」

「命じれば!女が男の命令を聞かないなど」

「そうなると、飛翔は自分の『勇者』ということを前面に出すぞ。誰が命じることができる?」

両親が炎と風の王族の血を引く人たちなので、高貴な身分といえばそうだが、特権階級とかそういうのに全く興味ない。

それはあの一家全員の意思だ。しかし、自分の意に沿わぬこと、特にせっかくの『平和』に水を差すようなことをするとは思えない。

「そうですか。けど、飛翔様が他国に移住されるときは僕もその国に移住しますから」

颯希が高らかに宣言する。

「ストーカーみたいだな」

と嵐が言う。

「好きにいえば良い」

ツンと颯希が言った。

「けど、お前んちも結構でかいところじゃなかったか?」

「知りません。僕は、今僕の意思でここにいるんです。家はもう関係ありません」

キッパリといった颯希の目は本気だった。

「あー、んじゃ俺もー。飛翔がいるほうが楽しそうだし」

東風が挙手する。

「じ、じゃあ。僕も」

「ストーカーって言ったくせに!」

颯希に指摘されて嵐は少しばつが悪そうだったが、

「さすがに他国のデータをハッキングしたら拙いだろう?同じ国にいなきゃ挑戦状叩きつけらんないじゃん」

と今思いついたようなことを口にした。

すると、「自分も」と挙手する者達が出てきて、殆どが飛翔とともに移住すると言い出していた。

西風はその様子に絶句し、空人は溜息を吐いた。









桜風
12.5.13


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