第15話
| 「今や飛翔ちゃんも時の人ねぇ...」 のんびりと呟いたのは、風花だ。 「お母さん、飛翔ちゃんは、昔から時の人ですよ」 凪が茶々を入れる。 人数が増えて大変だと飛翔が家で零したのをきっかけに風花と凪も塾に顔を出すようになった。 空音は大歓迎だった。これで、礼儀作法を教えられる人が増えた。 正直、飛翔にも訴えたが人に物を教えるのは苦手なのだ。 そして、空音は風花の作法に心から目を奪われた。完璧なのだ。 所作がすべて美しく、彼女の動きから目が離せなくなるときがある。 普段は気をつけてその美しさを損なわせているようだが、本気を出せば誰もが膝をつくのではないのだろうか。 「失礼します」 硬い声が入ってきた。 空音は息を飲む。 「おやー、風花さんに凪さん。今日も美しい」 「あらあら、東風君。どうしたの?」 入ってきた人物に声をかけながらさりげなく風花は空音を庇う位置に立った。 「いやいや、警戒しないでよ。俺がいるのに」 軽薄な同僚に溜息をつき、鳳貴はこの屋敷の主に向き直った。 「私は風の軍、赤の中尉鳳貴です」 敬礼を向ける彼に、彼女は「屋敷の主、空音です」と返した。 「で、どうしたの?みんな怯えてるから簡潔にお願いね」 確実に巻き込まれてこの場にいるのであろう、空人に凪が言う。 「実は...」 空人の口にした言葉にさすがの凪も驚きを隠せなかった。 「なんでそんなにバカばっかなの?!」 「あ、そっち?」 凪が驚いたのが、暫定的な女性の受験資格の授与ではなく、此処最近の上層部の定例会の議題だったことに東風は苦笑した。 「まあねー。私たちの税金を使って何バカなことを考えてんの?って感じよねー。頭領が秀炎さんだから、炎だって大人しいだけなのに」 風花が頷く。 「どういうこと?」 「あの人は、真綿でジワジワと首を絞めてやっちゃうタイプなのよ。ドカンと正面突破するタイプじゃないんですってー。その話を聞いてかなり納得出来ちゃったんだけどね」 風花が言う。 「ま、あの人は怖い人だと思うけどね。戦争中に全部の国を渡った経緯から、すべての国から一目置かれているんでしょ?」 「そうよー。一番発言権あるはずよ」 東風と風花の会話に鳳貴がゴクリと喉を鳴らす。 というか、東風が意外と視野が広いことに驚いた。何故、そんな人物が色んな部署を盥回しにされていたのだろうか... 「それで、用件は、女性の受験ね。条件は?」 「まだ詳しくは出ていないのだが...」 鳳貴が言う。 「ただ、あまり厳しくは言わないはずです。今、白と青が詰めています」 「形だけってこと?」 凪が問うと 「多少は厳しくするでしょうね。人数制限から始まるんじゃないかって思います」 「年齢は?」 凪が問う。 「受験資格を得るのは、男女問わないと思いますが、もしかしたら女性には上限を設定留守かもしれません。けど、風花さんには入っていただきたいはずなので、上限はそれくらいがラインかと...」 「何故、大総統の妻を入れたがるんだ、白と青は」 こっそり鳳貴が東風に問う。 「だって、わが国が誇るあの『絶対防御』を作ったの、風花さんだもん」 さらっと答えた東風の言葉に鳳貴は言葉を失った。 「ほ、本当ですか?!」 「ええ、内緒なんだけどね」 思わず鳳貴が本人に問うと何でもないことのように返された。 「それで!それでわが国の科学技術がどうのと言っていたのか...」 呆然とする鳳貴の肩を慰めるように空人がポンと叩く。 「お前も知っていたのか?」 「そりゃ、飛翔の下に居たんだから。あの絶対防御の制御はウチだし。何かあったら風花さんに助けを求めることになってたんだ」 制作者に確認するのが一番確実、ということだ。 鳳貴がその場にぺたりと膝をつく。 「あ、あの。大丈夫ですか?」 空音が膝をついて鳳貴の顔を覗きこんだ。とても心配そうな表情だ。 「え、あ...ああ。すみません」 そう言って鳳貴はよろよろと立ち上がる。 「それで、受験したい人をこの中から選抜するってこと?」 「今からだとそれしかないでしょう」 空人が言う。既に高等教育を身に付けている資産家の娘が集っている。 彼女たちはそれぞれ顔を見合わせていた。お互いの出方を探っているようだ。 「とりあえず、風花さんと凪さんと..どうせお前もだろう?」 空人が半眼になって室内に居る子を見た。 「勿論!」 「うわー、兄ちゃんがこれで妹が君みたいな素直そうなお嬢さんって反則だね」 「鈴風(すずか)に手を出すなよ?」 空人が必要以上に笑顔になって言う。 「...はい」 妹を守ろうとする兄の本気を見た東風は大人しく頷いた。 「家のこともあるだろうし、何より男の中に入って仕事をするんだ。思う以上にきついことがあると思うから、そこら辺もじっくり悩んで決めてもらいたい。受験資格の詳細は、今週中には出すと思う。それから1週間で受験者応募を締め切るだろうから、そんなに考える時間がなくて申し訳ないんだが...」 空人がそう言って教室の中を見渡す。 それでも、多少は前向きに考えている人は居るようで、その点、ほっとした。 「鳳貴ー、行こうぜ。これ以上塾の邪魔は出来ないだろう?」 東風が声をかけてくる。いつの間にかタメ口だ。だが、不思議と嫌な気はしなかった。 「では、お騒がせしました」 几帳面に敬礼をして部屋を後にする鳳貴に続いて「じゃ、お嬢さん方。また会いましょう」と東風がウィンクを飛ばして部屋を出て行く。 対照的な2人に凪は苦笑した。 |
桜風
12.6.10
ブラウザバックでお戻りください