第16話
| 欠伸をしながら廊下を歩いていると、灯りが漏れている部屋の前に差し掛かった。 思わずその部屋が何処の部署かを確認して彼はそっとドアを開ける。 「んー、なんだー??」 適当に返ってきた声。 「あ、いや。遅くまでいるんだなって思って」 彼、鳳貴はそのまま部屋の中に入っていった。 「まあ、書類仕事を空人ばかりにさせてたってばれたら飛翔から冷ややかな視線を向けられるからな」 苦笑して東風が言って、伸びをする。 「夜勤?」 「ああ、今月はうちが当番だからな」 そう言って鳳貴が部屋の中を見渡す。 「ここのボスになりたい?」 からかうように東風が言う。 「ああ、いや。そういや、あまり入ったことがないから。じっくり施設のことを聞いたことが無いし」 「興味ないだろう」 「そういえば、西風はどうだ?」 ふと思い出した。 「お前んところからだったっけ?」 「いや。ただ、『赤』だったから交流はあったんだ」 「うちのちびっ子とぎゃんぎゃん言い合ってるよ。ここは保育施設か、って空人は頭を痛めてる」 「...そうか」 困ったな、と溜息をついて鳳貴が言う。 「空音さんって知り合い?」 不意に東風が言う。 「へ?」 あまりにも唐突で、鳳貴は反応できずに唯一漏れた声が非常に間抜けだった。 東風は立ち上がってコーヒーを淹れる作業を始める。 「この間、風花さんと凪さんに会いに行ったとき、そんな感じだったからな」 「そんなにわかるもんか?」 「飛翔が俺の何を買ってると思ってんの」 「いや、分からん」 「洞察力と記憶力」 「...お前、そんなに記憶力とかいいのか?!」 鳳貴が思わず声を上げると 「失礼だなー。この部署は、性格がアレなやつが多いけど、必ず誰よりも優れてるって飛翔が思ってるやつが集まってんだよ」 と眉間に皺を寄せながら東風が返し、そのままコーヒーが入ったカップを鳳貴に渡す。 「ありがとう」と受け取って鳳貴は一口飲む。 「美味いな」 「豆に拘ってるヤツがいるからな」 「勝手に使っていいのか?」 「や、みんなで金を出し合ってる」 そう言って東風もコーヒーを口にした。 「空音さんは、俺の母親..らしい」 「ああ、雰囲気似てるな」 あっさり頷いた東風に驚く。 「驚かないのか?」 「俺、花街出身だから」 つまり、そう言う話は日常茶飯事ということだ。 「俺の場合、父親のこと知らないけどな。けど、普通ガッツリ隠すだろう。お前んちは金持ちだからそういうの、絶対に外にばれたら、場合によっちゃ地位が危うくなるだろう?」 「隠してるつもりだろうな。俺が知ったのも、両親が言い合いをしているのを昔聞いたのがきっかけだし」 飛翔にどうしても勝てない自分を嘆いて母親が父親に言い放った。あの下賎な女の子供だから、と。 凄く衝撃を受けた。 元々父親は婿養子で、母親は自分の家が持つ特権階級を非常に自慢していたことは知っている。 それでも、自分の不甲斐なさを別の人のせいにされていることがショックだった。 調べると、母親が子供の出来ない体だから、家を継がせるものを必要として子供を産ませたと言うのが分かった。 なぜ、それで責めるのだろうか。いわば、家の危機を回避してくれた人と言うことにならないのだろうか。 一度、本当の母親だという人の家を覗きにいった。 年齢的に不釣合いと思われる年老いた夫と幸せそうに微笑んでいた。 凄くホッとした。 そして、最近は飛翔を助けていると聞いてどうしようもなく、胸が騒いだ。 浮かんだ感情が『守りたい』だった。 ふと、東風を見る。 「なんだ?」 「お前、洞察力を買われたと言うなら、飛翔の性別は知っていたのか?」 「薄々な。ただ、やっぱり俺の中でも固定観念があったから。女の子はここに居ないって。あいつも、言ってくれたら俺達だってもっとフォローできたのに」 水臭いよな、と苦笑して東風が言う。 「...飛翔と俺は何が違う?」 「ついてるもんがあるかどうか」 「真面目な話をしているつもりなんだがな...」 半眼になって返された。 「努力しているかどうか。飛翔は自分を甘やかさない。たまにゃ頼ってくれても良かったんだけどな。意外と不器用だったんだよな」 苦笑していう東風の眸に愛しみの感情も見れて、鳳貴は少し困惑した。 「じゃあ、俺は見回りに戻るから」 慌ててコーヒーを飲み干して鳳貴が言う。 「おう、気をつけてな」 そういいながら東風は鳳貴のカップを受け取る。 「お前も、適当なところで済ませて帰れよ」 鳳貴はそう言って部屋を後にした。 |
桜風
12.6.24
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