第20話





論文も書き終わり、飛翔はそのときになってやっと気付いた。

「武官?」

受験票にはそう書いてある。

受験票に記載されている日程を見ると、武官受験者は明日も試験があるらしい。

明日は、体力や戦闘技術が問われるらしい。

自分にとっては、物凄く今更だ。しかし、武官なら、試験官は赤と黒か...

面倒くさそうだ、と思いながら飛翔は午前の試験と同じように余った時間を窓の外を眺めて過ごした。


「飛翔ちゃん、帰ろう」

今度は風花が迎えに来た。

「ええ、帰りましょう」

「試験どうだった?」

「論文は、採点する側の感性もありますからね」

そういいながら庁舎を出ると、既に庁舎を後にしていたほかの女性受験生が待っていた。

「試験終了の打ち上げしましょうって離してたんです。空音様のお屋敷にも顔を見せたいと思いまして」

「ええ、構いませんよ」

飛翔が頷くと

「え、飛翔様は武官試験ですよね」

と鈴風が問う。

「ええ、明日は実技試験しかありませんから。何か準備するものもありませんし」

飛翔が返す。そして、「そういえば」と凪を見る。

「誰が、私の受験の申し込みをしてくださったのですか?」

「飛翔ちゃんの元部下の皆様の直談判により、お母さんが手続きをして置いたわ。ちなみに、武官を受験ってのも彼らの希望ね」

「武官を?」

飛翔が不思議そうに問い返す。

「ええ。武官受験しておけばどの部署にも所属することができるけど、私たちみたいに文官だと、所属が限定されるのよ」

確かにそうなるだろう。

「...では、この受験結果を機に、軍の部署の再編も考えていると言うことですね」

もしかしたら、政治と軍事を分けるつもりなのかもしれない。前々からそういう話があったが、やはり黒と赤の牽制は必要だろうということで中々実現しなかったのだ。

つまり...

飛翔が顎に手を当てて考え込む。

「飛翔ちゃん?」

「はい?」

「ちょっと怖い顔になってたわ」

凪に指摘されて「すみません」と謝罪をする。

謝罪しながら飛翔が思っていたのは、今年合格するかもしれない彼女たちの境遇だ。

おそらく、政治と軍事を分けることとなれば今の体制がかなり混乱する。

人事は、白だ。そして、大総統。

「あれ?」

飛翔は首を傾げる。

政治と軍事を分けた場合、大総統はおそらく軍のトップとして残るのだろう。そうなると、政治のトップは白の将軍。つまり、翼だ。

これ以上一族で固めるのは拙いと言うのはあの2人のことだ、分かっているだろう。

何より、父が炎出身と言うことで炎との結びつきが強い。勿論、その子である自分たちだって、炎との結びつきが強くて警戒されるべき存在のはずだ。

そして、少なくとも白の尉官以上はその懸念は抱いているはずだ。

仮に、自分が今回の試験に合格して復帰したとして、武官受験と言いながら文官だろう。

自分で言うのも何だが、自分を外交におかなければ何のためにこんな無理を通して戻したのかが分からない。

となると、政治のほうだ。空也は、政治に向いていないだろうから軍に残らせるだろう。

やはり、今回の試験は再編に丁度良いと利用されている。

ふと視線を感じて振り仰ぐと白の大将が窓からこちらを見ていた。

睨みつけてみると彼は愉快そうに笑っている。

「狸ジジイめ」

飛翔は苦笑を漏らす。

まあ、彼は国のためなら結構酷いこともするだろうが、非情ではない。彼女たちを利用したなら利用しただけのものを返すだろう。

その点は、信じても良いと思う。

何も知らない女性陣を入隊させることでまずは動揺させて、そのまま一気に畳み掛けるのだろう。

間違いなく一枚噛んでいるはずの父にも苦言を呈しておこうと心に決めた飛翔は深く息を吐き、気持ちを切り替える。

「終わった?」

ずっと飛翔の思考整理を待っていた凪が声をかける。

「ええ、すみません。すっきりしました」

飛翔の言葉に「そっか」と頷き、彼女たちは当初の話どおり空音の屋敷に向かった。









桜風
12.8.26


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