第21話
| 空音の邸に着くと、メイドは安堵したように飛翔を見上げた。 「間に合われたのですね」 「誰も連絡をくれないので、知りませんでした」 肩を竦めて言うと 「連絡くれなかったのってそっちじゃない」 と凪に非難されて首を竦める。 「まあまあ、凪さん」 周りが彼女を宥めてひとまず、空音の邸でティーパーティが開かれることになった。 「お久しぶりです」 飛翔が挨拶をすると空音は目を細めた。 「赤の..中尉さんもお手伝いしてくださったんですよ」 嬉しそうに彼女が教えてくれた。 「はい?」 目を丸くして飛翔が問い返すと 「ああ、飛翔ちゃんの元部下の皆さんと鳳貴君が手伝ってくれたのよ。勉強を凄くスパルタに教えてくれて。一番のスパルタが、意外なことに東風君だったわよ」 と風花が言う。 「ああ、東風は結構厳しいと思いますよ、期待している相手には。基本、他人に期待していないから甘いだけで」 苦笑しながら飛翔が言うと、きっと自分たちは期待されていたのだと彼女たちは複雑な表情をしていた。 受かるかどうか。 飛翔が言っていたように論文は読む側の感性だ。 男女で感性が違うのは日ごろの生活で痛感している。つまり、それが如実に現れたら合格が難しいかもしれない。 「努力をして、結果がそれに伴わなかったとして。私の友人にそれを責めるような人は居ません」 飛翔が言う。 「あの...」 「不安そうな顔をしていないで胸を張りましょう。できることを出来るだけの力を持ってあなた方はやり遂げた」 「飛翔さんはまだ残っていますよね」 「ええ、またバカをしそうな気がしてなりません。今度こそ、うちの国が他国に侮られるでしょうね」 肩を竦めていう飛翔に皆は首を傾げた。 「待ってください!」 鳳貴が声を上げた。 「お前は黙っていなさい」 「実技試験を、中継などと...!他国にわが国の戦力をつぶさに公開するつもりですか!!」 鳳貴の言葉に部屋の中の男達は嗤う。 「新人の戦力が外に漏れたとして何の問題がある」 「あります!合格の基準が分かれば、わが国でどの程度の戦力を求めているかが分かります!」 「ふんっ。他国の蛮族どもがそこまで頭が回るとは思えん」 ありえない... 鳳貴は絶望に近い感想が頭に浮かんだ。 この人たちは、まだ自分たちの立場が分かっていないのだ... おそらく、この試験後に白は動く。今回の女性の受験資格はその隠れ蓑だ。 「何故分からない...」 ポツリと呟くと「お前こそ、最近は青とつるんで何をしている」と父親に指摘された。 「何を、とは?」 「馴れ合うな、あんな下賎な者共とは」 反論したい言葉をグッと飲んだ。ここで反論しても何もいいことは無い。 「何故分からないんだろう...」 鳳貴が呟く。 「や、お前俺らとつるむなって言われたんだろ?」 執務室にやってきた鳳貴に呆れた表情を向けて東風が言う。 「いっそここに配属になれば良いんじゃないんですか?」 颯希が言うと 「いや、それは...」 と遠慮されてしまった。 「しかし、父はなぜ状況が見えないんだ...」 「逆に、お前がきちんと見えているだけだよ」 苦笑して東風が言う。 「見たくないものから目をそむけて、聞きたくないもからは耳を塞いで逃げていれば、本来見えるもの、聞こえるものが感じられなくなる。たぶん、1年くらい前のお前だったら同じだったと思うぞ?」 仕事の手を休めることなく空人が言う。 「そう..かな?」 「飛翔のこと大嫌いだから、あいつのことを知ろうとしたら見えてきたもんが増えたんだろう?街中の状況とか」 ガシガシと撫でながら東風が言う。 「やめろ」と鳳貴が言うが、東風はやめない。 「しかし、ワンパだよね」 嵐が言った。 「ん?まあ、うちに依頼しなかったのは、何か裏があるんだろうけどな」 「や、飛翔の味方って看板背負ってるところに依頼できるわけないだろう」 鳳貴が指摘した。 「技術部よりも結構手先器用なのが揃ってるぞ?」 「ったく...なんなんだよ、この部署」 苦笑しながら鳳貴が言う。飛翔が必要と考えて集めた人材がここに集まっている。見渡せば、ここだけで小さな組織が作れる。技術、作戦、実戦、情報。全て網羅できる。 「あいつ、どうしたかったんだろうな」 彼女の部下達の特技を思い浮かべて鳳貴は呟く。 「たぶん、特に意図していないぞ」 空人が言う。 「は?」 「被らないように、って飛翔が集めたから。だから、全部を網羅してしまったんだ。たまたまっちゃ、たまたまだな」 たまたまでこんな最強の組織を作られては堪らない。 「人事は気付いていたんだろう?」 「そりゃそうだろう。引き抜き含めて白に申請だろう?」 「当然だ」 「つか、鳳貴は人事に口出したこと無いんだ?」 「や、興味なかった」 「黒と赤は最初の配属で物凄く騒ぐからな。育てるだけの力量が無いから、未来ある若者を預けられないから大変だぞ」 空人が言う。しかし、彼もそう大きな人事権があるわけではない。ただ、情報は入る。 「赤と黒は家柄が良いお坊ちゃんがいればいいんだろう?」 「あと、少数の庶民だな」 嫌悪を声音に載せて空人が言う。 「は?」 「顎で使えるやつが要るだろう?家柄の上下を気にせずに」 空人が言うと 「うわ、お前サイテー!」 と東風が鳳貴に向かって言う。 「特権階級にいるやつに人格を求めるなよ」 恥じるように彼が言う。 「飛翔とか、炎狼とかすげー俺らに親切だぞ。あいつらこそ最上級の特権階級の持ち主だろう」 東風が言うと 「最上級の特権階級は、教育が行き届いているんだよ」 と空人が指摘した。 「それもそうか」 目の前ですっかり納得している東風にちょっとむっとした。 |
桜風
12.9.10
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