第24話





始めの合図と同時に、飛翔の対戦相手は一斉に銃の引き金を引いた。

それと同時に彼らの周囲に炎が上がり、炎の壁に囲まれた。

人間も動物だ。動物は火を恐れる。

そして、飛翔はその炎の壁の向こうから全員を伸していった。

炎が消えたときには飛翔以外の全員が伸びていた。

審判に視線を向ける。

審判はどうして良いかわからず試験官を見た。

「待て!能力を」

「赤の少将、あなたはそこの受験生が2度も『風の力を使ってはいけない』と確認したのに、訂正をしなかった。最初、あなたは『能力を』と言ったのに、受験生はそれを『風の力』と言い換えて確認した。つまり、彼女は『能力』は他にある可能性を暗に示唆していた」

静かに白の大将が言う。

「そ、それは...使えるなどと思うはずがないだろう」

「おや?あの受験生の父親のことをご存知ではないのか?」

わざとらしく、青の中将が言う。

飛翔は赤の少将を見上げた。

「赤の少将。いつも仰っていたではありませんか。炎の混血、と」

呆れたように飛翔が言う。

「く、黒の中将」

「んー?」

「あなたは、ご存知だったのではないですか?!」

「そりゃ、知ってるよ」

「では、ご贔屓をされた、と?」

赤の少将は顔を真っ赤にして言う。

「お前、バカか。そこの受験生は白の大将が仰ったように何度もお前にヒントを出していた。それに気付かずに、自分が勝手に風の能力しか使えないって思ったんだろうが」

冷ややかに言う。

「他国のことをもうちょっと勉強しておけばよかったかもなー。あの受験生の、父親が出身地ではどのような存在だったか、とか?」

そう言ってチラと飛翔を見下ろした。

「んで、今回残ったあの受験生は合格で、対峙した奴らは不合格だろう?」

黒の中将が言う。

「な!待ってください!!」

赤と黒から声が上がる。

「何でー?」

黒の中将が問い返す。

「負けたら不合格と言うのは...」

「あの人数のハンデを貰っておいて、何の作戦も立てずに一斉射撃?頭を使ってない。『そこの赤の少将が気付かなかったんですからー、相手受験生が出していたヒントなんてヒヨッコ君たちがわかるはずないですよー』って理屈か?」

そう言って黒の中将が立った。

「おい、中継ももう終わらせろ。これ以上他国に恥をさらす必要は無い」

彼の命令に従って中継は打ち切られた。

取り敢えず、この国のバカさ加減を露呈したことになるが、飛翔がこれで合格したと示すことが出来た。

国の中心部に飛翔が帰ってくる。

これを他国にいち早く示すために空也達は中継を阻止しなかったのだった。


「おーい、面白いところで止めやがったー。兄貴めー!」

炎狼がごろんと背後に寝転んだ。

風の国の中継を拾っていたモニタの他にもうひとつモニタを置いている。そこには、友人達の顔が映っている。

風の中継を拾えるのは、今のところ炎だけである。そのため、他者には流さないことを条件に炎狼が受信しているモニタを別カメラで撮って皆で中継を見ていたところなのだ。時差の関係で、真夜中の国もあるが、皆は興味津々だった。

「え、中継終わり?!」

モニタの向こうで残念そうに言っているのは沙羅だ。

「そりゃ、これ以上簡単に中心部の情報を垂れ流してはくれないだろう」

苦笑しながら大地が言う。ここまで良く垂れ流した。ただひとつの目的のために。

「けど。何故中継をさせていたのでしょうか。空也さんとか、止めそうだと思うんですけど...」

頬に手を当てて霞が呟く。凄く不思議だった。

「それはね、『飛翔が欲しいデース』って手を挙げたワタシたち他国への牽制だよ。『飛翔はウチの子です。あげません!』ってさっきので示したんだよ、たぶんね」

雷が言うと

「だろうな」

と氷が頷いた。

「ねえ、飛翔って昔から炎の力を使えたの?」

「あー...まあな」

歯切れ悪く炎狼が頷いた。

「歯切れ悪いな」

と氷が指摘すると

「あいつ、正直アレは賭けだったんだ。兄貴達もそれは分かってたと思うけど」

と炎狼が苦笑する。

「...どういうこと?」

雷が問う。

「あいつの炎の力って10回に3回は暴発する」

「...はい?」

沙羅が問い返した。

「おれら、それぞれ属性持ってるじゃん?で、能力ってのはその人が持っている一番大きい属性が現れるだろう?飛翔は、風。異能なんだよ。馴染みのない力なのに、血筋でそれをカバーしようとした、ある意味力技だ。バランスをとるのがすごく難しいんだろうって伯父上が昔言っていた」

「暴発したらどうなるの?」

「あいつ自身は、それこそ、炎の血が流れているから、火傷くらいで済むと思うけど。しかも、痕は残りにくいだろうな。そうだな、とりあえず今回ので言ったら会場が吹っ飛ぶ?死傷者続出だな」

炎狼の言葉に皆は絶句した。

「え、それなのに賭けに出たの?」

「伯父上がたぶん、バランスをとるのを手伝ってやったんじゃないかとおれは推測する。これ、内緒な?」

人差し指を唇に当てて炎狼が言う。

「え、ズル...」

「やだなー。向こうが飛翔に喧嘩を売った。しかも、飛翔としては、会場が吹っ飛んでも全く困らないんだから、そんな配慮してやる必要は無いんだし。寧ろ、伯父上が部下のことを想って力を貸してやったと考えるのが妥当」

肩を竦めて炎狼が言うと

「お前の詭弁って...なんだろうな。違和感しかない」

大地が重く呟き、皆は頷いた。









桜風
12.10.30


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