第28話
| 飛翔が充てられた部署は外交に関係するところだった。 もともとそのつもりで呼ばれたのは理解していたので意外なところは何一つなかった。 「呼ばれた、というよりも利用されたというほうが正しいな」 苦笑してつぶやく。 白はこの機会に乗じていろいろと好きなことをしていたのだから。 ほかの受験生も、基本的に元は白と青が多かった部署に割り振られている。 そして、母は、技術部門で上の地位だった。 さすがにトップは避けられたが、彼女が帝の姉ということを皆が知ってるため居心地はさほど悪くないといっている。 姉はその帝の補佐にかかる、秘書の部署だった。 裏の事情、文化を知っているのでもってこいだったのだろう。 東風がぷらぷらと廊下を歩いていた。 ふと、向こうから人影が近づいてきた。位が上なら、道を譲るのが慣習だ。 それくらいはできる。 しかし、相手を見てそれができなかった。 ギリと奥歯を噛む。自分が最も出会ってはいけない人物。顔を見ただけで殺意が沸く。 これまで我慢できたのは上司のためだった。迷惑をかけたくない。純粋にそう思える上司。 しかし、今の上司はさほど義理を感じていない。 彼は東風の前を通りすぎた。 東風はほっと息を吐く。 しかし、男は足を止めてくるりと振り返った。 「そういえば、貴様は」 軽く頭を下げている東風はその言葉に反応することはなく、頭を下げたままだ。顔をあげたら自分の表情を見れば男は愉しむだろう。 「花街が実家らしいな」 「...は」 「では、貴様の母親は阿婆擦れか」 ギリと再び奥歯をかむ。怒りを鎮めるように大きく、ゆっくりと息を吐いた。 「まあ、価値もない女どものたまり場だからな、花街なんぞ。元大総統の娘も、親の地位を使って好き勝手しているわがままな小娘だ。 そういえば、貴様はあの小娘の下にいたか。いや、小娘を下に敷いていたのか?」 下種な嗤いをこぼす男に東風は思わす飛び掛かった。 自分のことは良い。だが、許せないことをこの男は言った。 飛翔の尊厳を傷つけた。本人がいないにしても、それは自分の許せないことだった。 男の顔を殴る寸前、その拳は軽く止められた。 「先輩、道に迷いました」 軽く東風の拳をいなしたのは飛翔だった。 「教えてもらえませんか?」 ニコリとほほ笑む。 「...飛翔」 「おやおや、噂をすれば...」 「私の噂ですか?それよりも」 そういって飛翔は男のそばにより、耳元で何かを囁く。 男は青くなり、そのまま逃げるように廊下を去って行った。 「...東風、さぼりか?」 ニヤッと笑って飛翔が言う。 「さっきは、かわいらしく『先輩』って言ったのに」 苦笑して東風が返す。 「あまり突っかかるな。いい事ないだろう」 肩をすくめて飛翔が言う。 「私のことで怒るな」 子供をあやすように言う。 「...今、あいつに何言ったんだ?」 「さあ?」 彼女は再び肩をすくめる。 「あ、そ」 そう返して東風はくるりと背を向けた。 「東風」 「なんだよ」 「だから、道に迷ったといっているだろう?」 「...方便じゃないのかよ」 苦笑した東風は飛翔を振り返った。 「ずいぶんいろいろと部署を置き換えられてるからな」 「はいはい、大先輩が案内してやろうよ」 そんなことをいう東風の隣に飛翔が並ぶ。 ちらと振り返り、軽く手を挙げた飛翔はそのまま東風の案内でその場を去って行った。 |
桜風
13.2.24
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