第30話





飛翔は部屋のドアをノックして開けた。

「久しいな」

「どうでしょうか?」

掛けられた言葉に飛翔はそう返した。

「それで?」

「これをこちらにお持ちするように言われましたので」

そう言って先ほど執務室で預けられた書類を渡す。

「ほう?お前が使い走りか?」

愉快そうに言うのは、元白の少尉だ。

「お呼び立てされたのだと思ったのですが?」

「...そんなにへたくそだったか?」

「私がこちらに参るための理由を考えてみると、やはり不自然ではない形での呼び出しかと」

飛翔の言葉に元白の少尉は眉根を寄せる。

「つまらん」

「お褒めにあずかり、光栄です」

飛翔の慇懃な返しに白の少尉は肩を竦めた。

「仕事だ」

「はい」

「内々に連絡をつけてくれ」

そう言われて彼が口にしたのは、他国の上層部。

「どういうことですか?」

「今、技術部が連日徹夜で行っている事業は知っているな?」

「ええ、まあ」

その中心に自分の家族がいるのだから。

「それを設置するのに、どうも役人同士で話をしても話が進んでいないらしい」

確かに、毎日自分の部署の上層部が難しい顔をしながら額を突き合わせて話をしているのを目にしている。

「まあ、通信は怖いですからね」

元軍人である自分でもわかる。

「だが、統領のお考えについては、各国の大臣クラス以上の承諾がされているのだ」

「ある意味、非公式でしょう。それに、一枚岩の国なんてあるんですかね。特に、上に行けばいくほど、利権が絡みますよ」

飛翔の言葉に元白の少尉は額を押さえた。

「お前の知り合いの上層部。あっちは他を抑えられるか?」

「わかりません。話をするくらいならできますが、それぞれの国内事情まで首は突っ込めませんよ」

「次期、国を治める方たちもいるんだろう?」

「では、帝の現状はいかがですか?」

スパッと切り返してきた飛翔の言葉に元白の少尉は言葉が出なかった。

「そういうことです。努力はしていただけると思います。了解しました。連絡しておきます」

そういって飛翔が部屋を出ようとする。

「赴かなくていいのか?」

「この『お願い』は一外交官として行うものではないのでしょう?でしたら、対等です」

飛翔の言葉に元白の少尉はため息を吐いた。

「帰ってもらってよかったとは思っているが」

「怖いでしょう?でも、野放しはもっと怖い。まともです」

そう言って飛翔はドアを閉めた。

残された元白の少尉は今度こそ深いため息を吐いた。

「怖いな」

呟いた自分の声が耳に届き、さらに戦慄する。

彼女は、自分の力を自覚している。おそらく、使い方も理解している。ただ、それを使わないだけ。

それを今見せつけられた。

「オレを敬遠してどうする...」

大して上の役人ではない。

飛翔を相手にするのが怖いと腰が引けたもっと上の役人の命令で飛翔に命令をしたくらいの、ちっぽけな存在だというのに。









桜風
13.5.26


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