第34話





技術部の責任者を待っている間、少し重い沈黙が部屋に降りてきた。

「ところで、殿下。今年の果実酒の出来はいかがですか?」

飛翔が話を振る。

今回の議題は今難航しているあの話だけだったのだ。この空いた時間をどのようにするか、と考えているところでの飛翔のその一言に雷は苦笑した。

「イマイチですね。少し気候が荒れましたから」

雷はゆるゆると首を振る。

「国が、ひとつの星になってしまった弊害ですかね」

「その前から少し天候に問題がありましたからね。むしろ、ここ最近の方が落ち着いているような気がしますよ。忙しくて趣味にかまける時間が減ってしまったので、やはり以前のようにはいかないかと」

苦笑していう雷に飛翔は苦笑した。

こっちは暇になったというのに。

「そういえば、先ほど概ね話がついていると仰っていましたが、どこに問題があるんですか?」

雷が問う。以前飛翔がから聞いたが、それから進展があったのかと気になったのだ。

「森の国の方が、少し。ただ、次期当主様が説得してくださっているようで」

飛翔の言葉に「説得ですか?」と長官が入ってくる。

「ええ。あそこは国の大半が、国の名前のとおり森なんです。その森の多くに精霊が住んでいます」

「精霊、ですか?」

訝しげに問う長官に雷が「居るんだよ」と苦笑した。

「精霊、というのは..どういう」

「見たことはないが、いるというのはわかる。私の場合は、光の精霊の存在が感じられる。飛翔..殿は」

「風と火ですね」

『殿』などと付けられてむず痒い。雷も同じくのようで、目が合って笑う。

「七勇というのが、神の遣いというのはご存知でしょうか」

飛翔の問いに「ええ」と光の国の長官が頷く。

「神がいるのだから、精霊がいてもおかしくないと思いませんか?」

「まあ、どの道我々には認識出来ない存在ですし...」

腑に落ちない表情で長官が言う。

「それで、先ほどの精霊の話になるのですが。精霊信仰というものが森の国にはあります。つまり、その精霊の棲家である森に何かをしようと思った場合、国民の納得が必要なんです。そして、森に棲んでいる精霊の了解も」

眉間に皺を寄せて聞いている長官に苦笑した飛翔に気づいた雷は彼を肘で小突く。

それではっとなった彼は「失礼しました」と慌てて頭を下げた。

「いいえ。まあ、今回の、我が国が開発している装置というのは、我が国からのデータの受信施設となります。その受信したデータを国内に配布するという次の作業が必要になってきます。目的が目的ですからね。
となると、施設を作らなければ難しいという判断になったようです。
そのため、一番効率的な場所を探し出して、その箇所を人の手によって切り開かせてもらうための交渉が必要になるそうです」

何とも面倒くさそうな話だな、と長官は思ったがふと気づいた。

つまり、そういう特殊事情のある国だけが話が進んでいないということだろうか。

「他国は、どうでしょうか」

飛翔は上司を見た。彼は頷く。もう最後まで話をさせたほうがいいだろう。裏事情まで知っているようだし、それをどこまで出して大丈夫かというのは飛翔に判断させても問題ないと考えた。

「火の国の通信施設は、元々我が国が技術供与しておりますので、今回は特に新たな装置の設置は行っておりません。
地の国の国王は、この事業の提案について反対する理由がないということで受け入れ態勢を整えていただいております。ただし、自国の技術担当部署の同席を申し出ておられますので、この点については、我が国も異を唱えるつもりはないため、了承しています。
森の国は、先ほど申し上げたとおりで、それが解決すれば受け入れ可能とのことです」

「水は?」

雷が問う。

「あそこの交渉が一番早く終わりました。というのも、施設の設置に掛けられる時間が少ないんです」

飛翔が言うと「あ、そうか」と雷が納得した。

「殿下、どういう...」

雷は飛翔を見た。彼女はどうぞ、というように頷いた。

「あの国は、1年の大半が雪や氷に閉ざされているんだ。だから、何か工事や作業をしようと思ったら短い『春』と呼ばれる季節にしかできない。今はその短い春のはずだ」

「そうです。ですから、我々も優先して水の国の装置を開発しました。かの国は、すでに装置が設置済みです」

風香が言う。

「設置済み?!」

光の国の長官が声を上げた。

「ええ、先ほど、殿下が仰られたとおりの環境なので、なるべく早く工事を済ませてしまいたかったのです」

「進捗は、水の国が最も早いということですか?」

「元々何も要らなかった火の国を除けば、そうですね」

「最後の、時の国は?!」

光の国の長官は、焦ったように最後の国の名を口にする。

「話はもう着いています」

飛翔が言うと

「では、我が国が最後ということですか」

と雷が言った。

何か含みのある雷の声音に隣に座っていた長官が背筋を伸ばす。

やりすぎだろう、と飛翔は心の中で雷の隣に座っている長官に同情した。









桜風
14.12.29


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