第35話





ガチャリとドアが開いた。

ほっと息を吐く光の国の長官に多少同情を抱きつつ、飛翔は開いたドアに視線を向けた。

繋ぎを着た技術者らしき男が立っていた。

「な、何をしている!!」

光の国の長官が椅子を蹴って立ち上がった。

「何故着替えてこない。正装で臨むべきだろう!!」

唾を吐き散らしながら長官が叱責する。

「で、ですが。お待たせするのも....」

「こんな格好で!!」

「あら、作業着は、技術者にとっての正装ですよ」

長官は、声をかけてきた風香を振り返る。

「私だって、作業着がいいと言ったのですけどね。この外務官が「では、あなたはよそのお屋敷に赴くときも部屋着で化粧もせずに行くのですか」っていうんです。
流石に、それはないなーって思ってこういう窮屈な格好で来ていますけど。でも、突然のお客様がウチに来たら、部屋着でお化粧もせずに対応するしかありませんものね」

にこりとほほ笑んでいう。

「しかし、ここには殿下も」

「ああ、気にしなくていい。風の国の技術部主殿の仰るとおり、技術者にとっての正装と思えば、間違っていないし、急に呼びだてたのだ。客人である、風の国の皆無官殿たちをお待たせする方が問題だ」

雷の言葉で長官はすごすごと椅子に腰を下ろし、「どうぞ、おかけください」と風の国の長官が今しがた連れてこられた技術部の責任者に着席を促した。

「先ほど、そちらの外務担当から伺ったのですが、現在、世界で進められている事業の話はまだお聞きになっていないのですよね」

飛翔が問う。

「事業、ですか?」

「こちらから、改めてご説明申し上げてもよろしいでしょうか」

飛翔が光の国の長官を見た。

長官が答えあぐねている姿に目を眇めた雷が「お願いします」と促す。

「では」と答えて飛翔は隣に座る風香を見た。

「技術的なものもありますので、私の方からご説明いたしますね」

そう言って話し始めた風香の言葉に技術部責任者は見る見るうちに目を輝かせてきた。

「そ、それはオレも立ち会ってもいいのか!もちろん、技術の吹聴はしない。黙秘する」

ダンとテーブルに手をついて立ち上がった技術部責任者が言った。

「おい!」

慌てて座るように服を引く外務官を煩わしそうに払って風香を見た。

「ええ。その方がこちらとしても作業が捗ります」

「作業が捗る?」

雷が零した疑問に「ええ」と風香は頷いた。

「というのも。私たちは、設置までしか行いません。その後、不慮の事故などで修理をしていただく必要が出てきます。私たちがこちらに赴くよりも、この国の技術者の方たちが直してくださる方が断然早いです。技術についても、秘匿するつもりはありません。お教えしなければ、先ほど言ったように修理していただくことができないからです」

「だ、だが。その見返りというのは...」

「この事業で、こちらの技術を供与することは、我が国の技術力を示すものとなります。こそこそできますか。どの国にも、技術の開示は行っております。失礼ながら、まだ他国は我が国の技術には及びません。つまり、開示する技術は、我が国の何年も、何十年も前のものをお渡しするようなものなのです。今は、我が国ではほとんど使われていない技術を」

胸を張って言う風香に「おお〜」と感動の声を漏らした技術部責任者は「それで、いつになる?」と時期を詰め始めた。

「ちょっと待ちなさい。これは我々の仕事だ」

「あんたらがちんたらしてたからこんなに遅くなったんだろうが」

技術部責任者の言葉が癇に障った外務官が立ち上がる。

「それくらいにしておけ」

静かな雷の声が大きく響く。

2人は大人しく椅子に腰を下ろした。

「お恥ずかしい」

「お構いなく」

雷の言葉に風の国の長官が返した。

「時期としては、いつになるでしょうか。そちらの開発のスケジュールにもよると思うのですが...」

「明日、時の国の設置が完了します。10日後に地の国で、森の国は...」

「あと3日欲しいという話が、昨日の事だから、まあ、明後日くらいにはケリがつくと思いますよ」

風香の言葉に飛翔が答える。

「開発をこれから始めますので、式典のぎりぎりになってしいますね」

「これから?!間に合うのか??」

色々と棚に上げて光の国の長官が言う。

「開発って、国で全部スペック違うのか?」

技術部責任者が風香に問う。

「そうですね。国ごとに技術の進歩の度合いが違うので。同じものを配れたら、もっと楽だったのですが、それぞれの段階に合わせて作っています」

「技術の進歩の度合い?それはどうやって図っているのですか?」

警戒しながら光の国の外務長官が問う。

「我が国に、すべての国の通信設備を目にしたものがいますので」

風香が言うと全員の視線が飛翔に向く。

「殿下、通信室に入れたということですか?」

「え、いや。入れてない...投獄はされたの知ってるけど、通信室は...」

「...飛翔ちゃん、投獄されたの?」

「私は、すべての国の牢獄を経験していますが?」

しれっと返す娘に、風香はため息を堪えた。

「じゃあ、どうやって...」

雷が問うと

「通信しましたよね、船から」

と軽く返した。

「あれだけでわかったの?!」

「...口調」

雷の口調を飛翔が指摘する。

「あれだけで、わかったのですか?」

「ええ。背後の装置の様子、声の返り方など。これまでのが間違っていなかったので、貴国のも私の感覚と実際設置してある装置の技術力の差に大して相違ないと思いますが...」

「じゃあ、ついでだ。見っててくれ」

そう言って技術部責任者が席を立った。

困惑しつつ、風香は風の国の長官を見る。

「待て。何を勝手に!」

光の国の長官が声を上げるが

「時期を話し合うのがあんたらの仕事だってさっき怒鳴ったじゃねけぇか。そして、装置が早くできればビリッケツにならないで済む。その方がいいんじゃないのか?」

挑発するように言った技術部責任者は「さあ」と風香を促す。

「こちらから、一人付けてもよろしいか?」

風の国の長官が言うと「かまわねぇ」と返された。

長官は飛翔に視線を向け、彼女は頷いた。

「では、申し訳ないが、私も退室させていただこう。あとは日程を詰めるだけの話となるだろうし」

釘をさすように雷がいい、光の国の長官は俯いた。









桜風
14.12.31


ブラウザバックでお戻りください