第37話





雷は少し先を歩く女性の背中を見た。

とても緊張しているようで、こちらがハラハラしてしまう。

「こ、こちらになります」

案内された部屋に仲間がいる。


今日は、各国が戦争の終結を宣言する日だ。そのため、各国の神の遣いである勇者もここに集う。

案内された部屋は仲間たちがすでに揃っており、自分が一番最後だと聞かされた。

「あなたは」

雷が声をかけると、案内してきた女性がビクリと肩を震わせた。

「あなたは、どうして役人になりたいと思ったのですか?いばらの道でしょう?」

少しだけ興味を持った。

「...どんな道も大変なことがあります。だったら、一番大変かもしれない道を選んで、「あー大変だった」って言いたいと思いましたから」

「そうですか。大変な道で得た仲間は、きっととても大切な存在になりますよ。ワタシにとって、この部屋の中にいる人たちのようにね。案内していただき、ありがとうございました」

雷はそう言って軽く頭を下げ、そしてドアノブに手をかける。


「あー、何か飛翔以外久しぶり」

そう言って雷は部屋に入ってきた。

すでに部屋で寛いでいる仲間たちは口々に挨拶をしてくる。

通信ではない仲間たちの表情は、やはり何だか懐かしさがこみあげてくる。

「でも、凄いよね」

「何が?」

沙羅のつぶやきを拾って大地が返す。

「全世界への中継施設をたった6ヶ月で作っちゃったんだもん。風の国、恐るべし!」

笑って言う沙羅に飛翔は苦笑した。

自分でもそう思ったのだ。技術部には無理をさせたと思っている。だが、時期をずらせばずらすほど今更という話になる。

「各国の協力のお陰だ。各国、というか皆の、だな」

飛翔はそう返した。

実際に飛翔が赴くことになったのは光の国だけだが、他国も皆が尽力してくれたと聞いている。

「そういや、風の大改革も平行で行ったんだよね?」

「平行..と言えばそうかもしれないが。技術部が動き始めたのはそれが一段落してからだからな。よく間に合ったよ」

飛翔の言葉に「うへぇ」と炎狼が声を漏らした。


ドアがノックされて顔を覗かせてきたのは空人だった。

「そろそろ時間です。お願いします」

そう声をかけて退室する。

皆はエンブレムの力を開放し、そしてドアを開けた。

廊下で待機していた空人の表情が硬い。

「どうした?」

「俺も能力者の端くれでね」

そう返した空人の表情の理由を察した飛翔は「そうか」とだけ返す。

エンブレムの力の解放は、すなわち、神力の解放であり、能力者であればそれを敏感に感じ取る。

あまり近くに居たくないらしい。

「少しの間だし、我慢しろ」

「してるよ」

「能力者はこの任務から外してもらえばよかったのに」

飛翔が言うと

「公平にじゃんけんだったんだよ」

と空人が返す。

「案内なんて飛翔にさせりゃいいじゃねぇか」

炎狼が言うと

「できないから、私なんですよ」

と空人は余所行きの言葉遣いとなる。

「そういや、光の国は、風の国のリーサルウェポンを引っ張り出したらしいな」

炎狼がからかう。

リーサルウェポンというのは、飛翔の事だ。

「あー、お恥ずかしいと言いますか」

雷が言うと

「むしろ、こちらが光の国のリーサルウェポンにお出まし願ったという状況だがな」

と飛翔が苦笑していう。

「でも、同席できてよかったよ。飛翔もいてくれて。あれ、下手したら拗れてた」

雷の指摘する「あれ」に飛翔は心当たりがあり、「そうかもな」という。

「何があったの?」

沙羅が興味津々に問う。

「これ、プライベートの話よ」

雷が釘を刺す。

「ウチの外務長官が、風の国にケンカを吹っかけたんだよ。もう内心冷や汗ものだったんだから」

「私は楽しかったがな。あそこまでぶっちゃけてくれると腹を読む必要もないし、楽でいい。ぜひとも続投で」

「すぐに更迭したよ。びっくりした。風にケンカ吹っかけたら、絶対もれなく炎がやって来るでしょ?」

そう言って雷が炎狼を見る。

「まあなー。親父、あれでいて容赦ないからな。この国の高官は嫌いだけど、叔父貴は尊敬してるし、飛翔は可愛いらしいし。あと、ここの帝を敵に回したくないらしいし」

頭の後ろで手を組んでいう。

「戦後の復興とか、そういうの全く無視したら攻撃力最高なのが、炎だよな?」

「薙ぎ払えばいいからな」

軽く頷く炎狼に案内役の空人がぶるりと震えた。


とある部屋の前でぴたりと足を止めた空人が、「代表の方々がお待ちです」とドアを開ける。

部屋の中は空人の言ったとおり、各国の代表者が寛いでいた。

「飛翔、先ほど姉上を見かけたよ」

声をかけてきたのは帝だ。

「そうですか」

「撮影機..というのかな。それを持ちながら今日の中継のために組んだ者たちにもっとも撮影しやすい場所を聞いていたよ」

「伯母上が撮影クルーなのか?」

炎狼が飛翔を見ると、彼女は頭を抱えていた。

「ああ、個人的に飛翔を撮りたかったんだな」

苦笑して頭領が言う。

「おばさま、相変わらずね」

くすくすと沙羅が笑う。

「では、義姉上に私も頼まなければならないんだろうな」

「やめろ」

頭領の言葉に炎狼が間を置くことなくいう。

「どうせ義姉上経由で知られることになるだろう」

「何を、でしょうか」

時世が問う。

「データの複製ですね」

微笑みながら頭領が答えた。

「妻がきっと欲しがると思いますので。おそらく、義姉上がお持ちの撮影機は、クルーが持ってるものよりも高性能でしょうし」

「それは...」

絶句したのは帝で飛翔に視線を向けた。

「母が、おそらく個人的に色々と改良を加えたものだと思います。ただ、データが重くなるので、中継には向かないのでしょう」

そう答える飛翔に帝は苦笑を向けた。

「姉上は本当に...」

「皆様、お時間です」

ドアがノックされて外から声がかかる。

「では、参りましょう」

帝がそう言って皆が続く。

歴史に一つの区切りができた日の出来事だった。









桜風
15.1.6


ブラウザバックでお戻りください