| ゴールデンウィークが明けた週は本当に体がだるい。 職員室内でも、学校内でもそんな雰囲気が漂っている。 そういうのを見せないのは生徒会くらいだ。勿論、副会長は除くが... 「あ〜、ダリィ...」 清春が呟く。 「キヨ!ほら、元気出して。生徒が見たらがっかりするよ」 「そうそう......しゃっきりして」 「瑞希。お前にだけは言われたくないと思うぞ」 呆れたように翼が言い、「だなぁ」と一は苦笑した。 「まあ、五月病だろう。しかたない」 不本意そうに瞬がそういう。 ふと、『五月病』という単語で思い出した顔があった。 その日の帰り、悟郎は懐かしい場所へと足を向けた。 昔自分が自作のイラストを路上販売していた場所だ。 その人とは顔を合わせた期間は少ない。何せ、その人が現れるのはこの時期だけなのだ。 角を曲がったらやはりその人は数年前と変わらず同じ場所で路上販売をしていた。 その人が販売しているのはビーズアクセサリーだ。中には七宝焼きもあるが、主に商品として並んでいるのは可愛いブレスレッドやシンプルなネックレスなどの装飾品だ。 悟郎は声を掛けようとして躊躇った。 そういえば、名前も知らない。 その人とは顔見知りだ。 悟郎が少し席を外すときにはその人が店のほうを見てくれていたし、逆もまた然りだ。 当時はその人のことを名前で呼んだことがない。聞いたことがなかったのだ。 その人は逆に「ゴロちゃん」と呼んでいた。学校の女子生徒が客としてやってきたときにそう呼んでいて、それを耳にしたその人はそのまま自分を「ゴロちゃん」と呼んでいた。 一度深呼吸をして悟郎はその人に向かって足を向ける。 「こんにちは」 キャスケットを目深に被り、アスファルトの上にダンボールを敷いてその上に軽く胡坐を組んでいるその人は悟郎を見上げた。 「あ..あれ?ゴロちゃん?」 キャスケットを脱いだその人は驚いたように声を上げた。 帽子の中に仕舞っていた髪が流れるように降りてくる。 「久しぶり〜。お姉さん」 一見、男のように見える彼女は綺麗な髪をした女性なのだ。 「うわ、久しぶり。ずーっとここに来てないからゴロちゃん場所変えたの?」 隣に座ってよ、といった風にポンポンとアスファルトをたたく彼女に苦笑して、悟郎も座った。 「ねえ、今更のコト聞いて良いかな?」 「なに?」 悟郎が言いにくそうに言ってくるため、彼女は首をかしげた。 「名前、聞いても良い?」 彼女はきょとんとして、笑った。 「ああ、そっか。あたしはゴロちゃんの名前って女の子たちのお陰で知ってたけど、あたしの名前はゴロちゃん知らないんだったね」 そして「」と名前だけ答えた。 「さんね」と悟郎は確認する。 以前、彼女に何故この時期にしか来ないのかと聞いたことがある。 GWが終わった翌週の数日のみ。 彼女のこれは趣味で、だから自分に都合の良い日に来ているのだといっていた。 彼女の仕事はGW中には休みはなく、明けた週に休みがゴールデンウィーク分与えられるといっていた。 「相変わらずのお仕事してるんだ?」 「まあねー。ゴロちゃんは、夢を叶えたんでしょ?」 そう言ってウィンクする彼女に悟郎は目を瞬かせた。 「知ってたの?!」 「もち!...って、実は偶然。会社の同僚にゴロちゃんのファンが居たの。画集出してるでしょ?見た瞬間叫びそうになったわよ、『ゴロちゃん!?』って」 クスクスと笑って言うに悟郎は嬉しいのと悔しいのがない交ぜとなった感情を抱いた。 「ボク、少しは成長したと思ってるんだけど...イラストでも」 呟くように、しかし訴えて言う悟郎には再びきょとんとして、苦笑した。 「上手になったわよ。正直、あたしってゴロちゃんと一緒に居た時間なんて少ないからえらそうに言うつもりはないけど、本当に成長した。純粋さを持ったままちゃんと大人になったんだな、ってびっくりしちゃったわ」 の言葉に悟郎は照れくさそうに笑った。 「さんは、相変わらず...?」 「まあねー。ここでこうしてヒューマンウォッチングを年に一度の楽しみにしてるわ」 「やっぱり五月病の人を見てて楽しいの〜?」 覗うように、少し非難するように悟郎が言う。 彼女は「ちっちっち」と人差し指を立てて左右に振る。 「違うよ、ゴロちゃん。五月病の人が面白いんじゃなくて、ものっすごくだるそうにしていた人が見せる人間模様が楽しいの。できればGW前の1週間も見てみたいんだけどね」 「変なシュミ」 「ゴロちゃんに言われたくないなー」 がそう返すと、悟郎は自分の今の格好を見て「それもそだね」と納得した。 聖帝を卒業したときに女装はやめたが、今回、卒業して5年ぶりに聖帝に戻って来るにあたってまたしても女装をして戻ってきてしまったのだ。 聖帝に通うならやっぱりこうだろう、と。 「ね、さん。いつまでここに居るの?」 「明日で店じまい」 の言葉を聞いて悟郎はにっと笑う。 「じゃあ、明日。さんの店じまいの後にご飯食べに行かない?ゴロちゃん、お酒を飲んでも大丈夫なんだから!ゴロちゃん、おごっちゃう!!」 「いいわよー、大人の階段を上ったゴロちゃんに付き合いましょう。あ、あたしザルだから!」 の言葉に「え?」と固まった悟郎に彼女は笑う。 「あ、そだ。ゴロちゃん。これ、あげるよ。ブレスだけど、ストラップにもなるし」 そう言って渡したビーズアクセサリーは緑色の系統のビーズがベースとなっており、アクセントに赤いオレンジの小さな石が使われている。 シンプルなものだが、センスが良いとすぐに悟郎は気に入った。 「タイトルは?」 「初夏の風。んー、『薫風』なんてどうかしら?」 「わお!ステキだね」 そう言って悟郎は携帯ではなく、自分の腕にそれをつけた。 「明日、センセちゃんに自慢しちゃおっと!」と独り言を言い、「じゃあ、明日また来るから」と悟郎は去っていく。 そんな悟郎の背中をは笑顔で手を振りながら見送っていた。 |
桜風
09.5.1
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