線香花火





「そこで何をしてるの?」

不意にそんな言葉がの背に届いた。

ゆっくり振り返ると背の高い、どちらかといえば整った顔の少年が近づいてくる。

「こんばんは」

突然声を掛けられたにも拘らずは応じた。

「こんばんは。じゃ、なくてね」

挨拶をされたら挨拶を返す律義者のようだ。

「何をしているのかなって」

「花火」

「ここは学校だよ?」

「そうね。聖帝学園高等部。体育館裏」

「けど、ほら。今は雨降ってる」

そう言って彼は傘の外へ軽く手をのばして小さな雨粒をその掌に受ける。

「特に支障はないと思うけど?」

ああ言えばこう言う、という言葉が頭に浮かんだ。

「オレは、嶺アラタ。マイスイートでも、ダーリンでも好きに呼んで」

「わたしは、私立聖帝学園高等部卒業生。変なあだ名付けたらぶっ飛ばすわ」

名前を名乗られたので、も立ち上がって応じる。にこりと微笑んで。

「最初の質問に戻るけど、ここで何をしているの?」

「花火。もっと詳しく言えば、線香花火限定」

「大丈夫?許可とか取ってる??」

「くれる、かしら??」

アラタは面白いものを見つけたような目をした。

「無許可でこんなことをしてるんだ?」

「キミ、後輩。わたし、先輩。敬語があったほうが良いんじゃないの?」

が言うとアラタは面白そうな表情を浮かべる。

そして、コホンとわざとらしく咳をひとつして「サンは無許可で花火をされているのですか?」と言い直した。

ああ、意外と律義者。

「そうね、無許可ね」

「けど、今の生徒会の会長。結構そういうの煩いよ?見つかったら面倒だと思うけど...?」

「ホント?それは、嫌だなぁ...」

はそう言って笑う。大して嫌そうではない。


「ねえ、一緒に花火しない?」

彼女が突然言った。

「ん?」

「線香花火しかないけど...」と手元に置いている線香花火の束を見せる。

「何で、線香花火しかないの?..ですか?」

言い直してアラタが聞いた。

「独りで花火をするつもりだったから、かな?他の花火、賑やかなのはやっぱり大勢の方がいいでしょ?」

「じゃあ、校内で独りで花火なんてせずに大勢で、例えば..河原や公園ででも楽しめばいいんじゃないの?」

「んー、でも。一緒に楽しんでくれる人の存在がなかったら、どうなのかしら?」

「...サン、友達が居ないの?意外だな。だったら、ほら。カレシとか」

軽く眉を上げて意外そうにアラタが言う。

「上っ面だけの友達という名の知り合いは居るわよ。結構な人数。ちなみに、カレシってのもそれに含まれます」

「上っ面...?それ以外の、『友人』と呼べるひとは居ないってコト?」

「向こうがどう思っているかはともかくとして。居ない、かな?」

寂しそうに笑ってがそう言う。

アラタは肩を竦めた。

「じゃあ、何でここで花火をするの?」

「わたしね、友達を作るのが本当に下手でね。相手との距離を測るのが苦手だったの。でも、そんなわたしでも友達が出来た。彼女と居たときは物凄く楽しかった。
だけど、彼女は親の仕事の都合で引っ越したの。一緒に高等部の制服を着ようねって約束したんだけど、子供だからどうしようもないのよね。大人の都合に振り回されるのが子供の運命ってところかしら?」

話が見えない。

「まあ、そういうわけで。高等部といえば『寂しい』という感情に結びつくのよ。寂しいときには、ここに忍び込んでるわ」

『忍び込む』と彼女は言った。

アラタは苦笑して傘をくるりと1度回した。

「そっか。じゃあ、サンは今、寂しいんだ?」

「だから、付き合ってみない?」

「カレシとして?」

「残念だけど、役が不足してるわ。キミはまだ花火友達、くらいかしら?しかも、線香花火限定」

「キビシイなぁ...」とぼやきつつもアラタは傘を閉じる。

「あら、ホントに付き合ってくれるの?」

「ま、線香花火よりも打ち上げ花火の方がオレは好きだけど?サンと知り合いになれたこの奇跡に感謝をしても良いかな、って」

「生徒会が来たら面倒なんじゃないの?」

「女の子のお誘いは出来るだけ受けるようにしてるんだよ...ンフッ」

「あらあら、アラタくんはプレイボーイなのね」

からかうようにがいうとアラタはウィンクをした。

「とりあえず、今は線香花火友達からススキ花火友達とか、スパーク花火友達くらいになりたいかな?」

アラタの言葉には笑って、「まあ、せいぜい努力したまえ」と言いながら線香花火を1本渡した。









桜風
09.8.1