カーディガン





夏休みが明けて新学期が始まった。

まだまだ日差しは厳しいが、それでも日陰に行けば結構快適に過ごすことが出来る。

は日陰を求めて中庭を歩いていた。

とことこと歩いていると白い何かが見えた。

何だろう、と近付いて「あ、」と声をもらした。

そこには人が倒れていた。

...じゃなくて、寝ていた。

斑目瑞希、という講師の先生だ。気持ちよさそうに寝息を立てている。

しかし、まだ2年のは彼の授業を受けたことがない。

彼はどうやら3年の授業を中心に持っているとか。美形の先生がやってきたと2年の間でもかなり有名になっている。


今年になって突然現れた先生が6人。

そして、今年になっていなくなった先生も6人。

いや、違った。いなくなった先生は7人。

新しい先生も、新任の先生を含めたら7人になる。

まあ、いなくなった先生の補充だから同じ人数になるのは当たり前だが...

新しく来た先生のうち、新任の北森先生は教師だが、それ以外は『先生』と言っても『講師』らしい。

しかし、まあ。何だってこうも目に痛いというか、眩しい先生たちしかこの学校の高等部にはいないのだろうか。

中等部のときを思い出してみても、こんな眩しい思いはしていない。

まったく、どういった採用基準だ。

採用を決定したであろう理事長にお礼を言わねば...!

そう思いながら斑目瑞希の顔を覗き込んでいると「トゲー!」と何か聞こえた。

何だ?

じっと見ると、そこには白いトカゲがいて、「トッゲトゲー!」とご機嫌に鳴いている。

...鳴いている?!

は改めてトカゲを見た。

「とげ〜?」と首を傾げている。意外と愛らしい。

爬虫類が苦手な人は少なくないと思うけど、自分もそこまで得意じゃないけど..可愛い。

「こ、こんにちは」

思わず日本語で話しかけていた。

しまった。斑目先生はアメリカから来たから英語圏のトカゲかもしれない...

そんなことを思っていると「トゲー!」と返事があった。

おお、通じた...!

これで自分も異文化交流が出来た。よし!!

そんなことを思っていたら「んんっ」と言って斑目瑞希が眉間に皺を寄せた。

は「あわわ...」と慌てる。

ちょっと騒がしくしてしまったのだろうか。

わたわたと慌てたは回れ右をしてその場を去ろうとして足を止めた。

この日陰は、確かに涼しいが、寝ていると少し寒いかもしれない。

風邪をひいては大変だ。

斑目先生は天才らしいから風邪を引く要因はある。

何せ、風邪を引かないのはバカだけだ。

そう思って持っていたカーディガンをそっとかけた。

「とげー!」

白いトカゲが声を掛けてきた。

は口に指を当てて「しぃ」と言う。

「じゃあね、トカゲ君」

小さく手を振ってその場を足早に去っていった。



「おーい、瑞希。起きろ」

揺さぶられて目を覚ます。目の前には、友人の草薙一。

「......やだ」

「いや、『やだ』じゃなくて。もう夕方だぞ。このまま寝てたら風邪引くぞ、って。何だ、カーディガンなんてもの掛けてたのか。んじゃ、もうちょい大丈夫か」

身に覚えのない単語を聞いて瑞希は目を開けて自分の体の上に掛かっているものを手にした。

何だろう?

「トゲー、知ってる?」

瑞希の問いに「トッゲー!トゲトゲゲー!!」とトゲーがそのときの状況を説明してくれた。

「へえ、何組の子だろうな」

トゲーの言葉が分かる一も感心しながらそう呟いた。

少なくとも、このカーディガンは彼女に返さなきゃいけないし。だったらクラスとか調べないといけない。

「トゲー、この子の事覚えてるよね?」

瑞希の問いに「トッゲゲー!」と自信満々にトゲーが請け負った。

「じゃあ、明日。探してみよう」



翌日、トゲーの記憶を頼りにカーディガンの持ち主を探した。

クラス写真を全部並べてトゲーに見てもらっている。

「トゲッ!トゲゲー!!」

「この子?」

トゲーが足で抑えている女子生徒を指差して瑞希が確認した。

「トゲー!」とトゲーは頷く。

『2年B組』の写真だった。

「あ、さんですね」

2年B組は北森先生が受け持っているのではないかと思って聞いてみたら、ビンゴで名前を教えてくれた。

「ありがとう」と瑞希は礼をいい、のクラスに向かった。

..って子。いる?」

瑞希が突然尋ねてきたことにクラスはざわめいた。特に、女子が。

「あれ?」と瑞希の背後から声がして振り返る。

「トゲー!」

「あ、トカゲ君。また会ったね...って斑目瑞希先生?!」

彼女は仰天した。

「これ、ありがとう」

そう言って彼女のと思われるカーディガンを渡す。

「あ、はい...って、何で分かったんですか?!」

あまりの驚きように瑞希はしばらく考えて「企業秘密」と答えた。

瑞希の答えにさらに目を丸くしたにふっと笑って瑞希は何事もなかったかのようにそのクラスを後にした。

ちょっと、面白かった。


瑞希を呆然と見送っていたははたと我に返り、自分の手にしているカーディガンをぎゅっと抱きしめる。

なんだか、これを着て勉強したらいい成績が取れそうな気がしてきた。









桜風
09.9.1