siesta





生徒会室に入ると、部外者が堂々とテーブルに突っ伏して寝ていた。

『部外者』と分かったのは彼女が制服を着ていなかったこと。

教師らしい服装をしていなかったことから勝手に推測した。

...まあ、優秀な教師のうち、教師らしい服装をしていない人もこの学園にいるが、それは取り敢えずここでは置いておく。

「何をしている!」

厳しい声で聞きとがめた。

が、彼女は意外にも深い眠りについているのか反応がない。

これは、無理やり起こすべきか...

少し悩んだが、取り敢えず、現時点でやることがあるのでそれを済ませてからでも遅くないと思って手元の仕事を片付けることにした。


「おやや?優秀な生徒会長さんですねぇ」

不意に背後から声を掛けられて慧は慌てて振り返った。

「あれ?違った?」

「正解だ。僕が聖帝学園生徒会会長の方丈慧だ。ところで、貴様は誰だ?!」

指示棒でビシッと指してそういう。

彼女は指示棒の先に視線を集めて、目を寄せて遊ぶ。

「遊ぶな!」

慌てて棒を引っ込めて慧が咎めた。

「ああ、名前?。ヨロシク」

「部外者が何故ここにいる!ここは神聖な生徒会室だぞ!!」

「ありょ?いつの間に、ここはそんな『神聖な』っていう形容詞が付くような場所になったの?」

そういいながら部屋の中を自由に歩きだす。

しかし、彼女の口ぶりから彼女はこの学校の卒業生のようだ。

「卒業生、なのか?」

伺うように言う慧には笑いながら頷いた。

「えーと、君の4年先輩、かな?」

「何故、無断で生徒会室に入っていた?!」

詰問されてもどこ吹く風では部屋の中を見渡している。

「無断..じゃないよ?」

「誰かの許可を得たのか?」

「『おっじゃましまーす』ってちゃんと言ったもの」

彼女の言葉にちょっと考えて「誰が許可した?」と改めて慧が聞く。

「わたし」と彼女はさらりと答えた。

「それを無断というのだ!」

「それは失礼」と軽く返すに慧はイライラを隠せない。

「貴様は」と言い募ろうとしたら「先輩」と彼女の指が唇に当てられて思わず口をつぐんだ。

「さっきお話しましたよね?わたし、あなたの4年先輩なのですよ?優秀な、生徒会長の方丈慧君?」

からかうように彼女はそういう。

慧は言葉に詰まりつつも、気持ちを切り替えるようにコホンと咳をひとつした。

「で、さんは何でここにいるんですか」

先輩、って呼んでくれてもいいのよ?」

そんなの言葉は黙殺した。

その慧の反応には笑って「懐かしくて」と答える。

「懐かしい?」

「そ。わたし、この学校の卒業生として方丈君の先輩だけど、生徒会の人間としても先輩なの」と苦笑する。

それは、知らなかった。

「それは、失礼しました」

「いえいえ。ただね、ちょっと噂で聞いたから」

彼女の言葉に慧は首を傾げる。

「この学校、建て替えされてるって。じゃあ、見納めしなきゃ、とか思ってたんだけどどうしても時間が取れなくて。取れたらもう..こんなになってた」

彼女が言うには、彼女が在校中の生徒会室はこんなに立派ではなくて他の教室と殆ど変わらなかったという。

「生徒会に入っていたときって、忙しくて。休みの日も出て来てて。でもやっぱり疲れるからここで居眠りとかしていたのよね」

「先ほどのように、ですか?」

「です」とは頷いた。

「休みの日の出勤というか出動があった日は、10分くらいだけど大抵昼寝してたの。さっきみたいに。で、生徒会室に入ったら懐かしくて、体が覚えていたのか眠っちゃったのよ」

なるほど、と慧は少し納得した。

「驚かせてごめんね」と彼女は手を合わせて謝っている。

ま、まあ...そういうことなら仕方ないと慧もそれ以上何も言わなかった。

「じゃあ、お邪魔しました」と言ってはドアに向かう。

「もう、良いんですか?」

「うん。だって、ここにはわたしの思い出がどこにも残ってないもの」

肩を竦めて少し寂しそうにが言う。

「ひとつだけ、あったんじゃないですか?」

慧の言葉には首を傾げた。

「昼寝」

の表情が不意に和らぐ。

「そういえば、そうね」

彼女は頷き、ドアに手を掛けた。

「お仕事の邪魔をしてゴメンナサイね。あと、ありがとう」

そう言って部屋を出て行った彼女の言葉に慧は首を傾げる。

何が『ありがとう』なのだろう。


しかし、それは後日分かった。

時々、が生徒会室で昼寝をしているからだ。

「僕は昼寝を認めたわけじゃない!」

彼女に抗議を何回かしたが相変わらずどこ吹く風で、やはりふらりとやってくる。

しかし、いつからか彼女の寝息が何となく心地の良いものに変わっているということに気づいた慧は、それ以降彼女の訪問に文句を言わなくなった。彼女が生徒会室に来るときはなぜか自分ひとりのときだし、まあ、大目に見てやろうと思えるくらいにはなった。

何より、眠っている彼女はなんだか少しだけあどけない感じがして、あの口達者な現実が想像できないのがいちばんいいことかもしれないと慧はこっそり思っていた。









桜風
09.9.1