Sweet × Sweet





ドタドタと賑やかな足音が廊下にこだまする。

「なに、あれ」

呆れた口調で星月学園の産業医、が呟いた。

彼女の父親がこの学園の元理事長と懇意であったために産業医となり、医師免許を取得してからと言うもの、彼女がその担当を引き継ぐことになった。

今年で2年目である。

「バレンタインイベントだそうだ」

苦笑しながら保健医、星月琥太郎が答える。

「ふーん、男子校でバレンタインって空しくない?」

「正しくは、女子生徒が1人しかいない共学なんだがな」

そう返されて「ああ、そっか」と笑う。

『共学』という看板を掲げていても実質男子校のこの学校に、よくもまあ、突撃したものだな...

は呆れと同時に尊敬の念をこの学校の唯一の女子、夜久月子に抱いている。

「えーと、これ。契約書ね。あと、来年度の学校行事の計画は?」

本日は産業医としての契約更新と来年度の学校行事についての確認にやってきた。

「来年度の計画はすまんが、来月になりそうだ」

「星月くん...」

前もって、それを受け取りに行くことを話していたのに、と恨めしそうな声では星月の名を呼ぶ。

「仕方ないだろう。理事長にも一応きちんと話をしていたのに、これなんだから」

彼の言葉にそっと溜息をつき、「了解。来月も来るわ」とは肩を竦めた。

と星月は同じ年で、彼は大学の同期である。元々面識があったので大学でもよく話をした。


「正しくは女子が1人しかいない共学だけど..男子校って何でこんなに賑やかなの?」

星月が淹れたコーヒーを飲みながら言うの言葉に彼は苦笑した。

「さっき、言っただろう。バレンタインイベントだそうだ、と。普段はもう少し、ほんの少しは静かだ」

「へー...で、バレンタインイベントって何するの?」

「学園内のどこかに『本命』が隠してあるそうだ。それをみんな必死で探してるんだと」

「...夜久さんの本命?本人にあげなくて良いの?全く知らない男の子が手にしたら悲しくなるんじゃないの?」

きょとんとして彼女が問う。

「そういう『本命』じゃないらしい。詳しくは知らないが、彼女が用意したもの、という意味で『本命』があるんだと」

「つなり、『本命』があるということは、『義理』もあるという...?」

「たぶんな。義理は、生徒会メンバーが用意したものだろう。ヤローが用意したものを誰が好んで手にするか、ということらしい」

「いるんじゃない?喜んで手にする人。ひとりくらい」

「まあ、それはそれで個人の自由だからな」

肩を竦めて星月がそう返す。

「ふーん」と答えてはカップを流しで洗う。

「じゃ、来月また来るわ」

「ああ、悪いな」と言った星月が白衣のポケットに突っ込んでいる手を出した。



振り返ったの手を取る。

「今日はバレンタインだそうだ」

自分の手に何かを乗せられたのはわかった。

重なっている星月の手が離れ、見ると飴が置いてある。

星型の飴だ。

「あらあら」と驚くに「知ってるか?ホワイトデーは3倍返しだそうだ」と星月が笑う。

「そっかー。じゃあ、これを3つ持って来れば良いのね。換算しやすいもので助かるわー」

の言葉に星月は「失敗したか」と苦笑した。

「ま、来月来るときは何かお土産でも持ってきましょう」

「期待せずに待っておくよ」


保健室を出て星月からもらった飴を口の中に放った。

黄色いからレモンだと思っていたが意外なことにパインだった。

心で準備していた味と違っていて思わず は「む..パインか」と呟いた。









桜風
11.2.14
11.4.24再掲


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