桜の姫





周囲が薄紅色で煙る。

「今年の桜ももう終わりねー」

空を見上げながらが呟く。

「んー、今年も見事に咲いたな」

桜の季節になると必ず足を伸ばしてこの桜並木にやってくる。

ここに来るのは何度目だろう...

「何してるの?」

思わず指折り数えている不知火の手を覗き込んでが言った。

「ん?何回目かな、って」

「あら、一樹ってば薄情者ね」

真顔で言われて不知火は苦笑した。

ここに来た回数はつまり、付き合って何年経つかと言うことなのだ。

「もう7回目..か?」

「あら、疑問系?」

愉快そうに彼女は笑う。


と不知火は大学2年のときから付き合い始めた。

そして、大学を卒業し、それぞれ目指していた道を歩いている。

何度か並んで歩くことを諦めかけたが、何とか2人で乗り越えて今年、7年目の春を迎えている。

満開の桜は少し風が吹いただけでもはらりはらりと花びらが散っていく。

「綺麗ねー」

「散るのに『綺麗』って言われる花ってそんなにないだろうな」

の呟きに不知火は同意した。

「わっぷ」

突然強い風が吹く。

は髪を押さえながら桜吹雪に思わず目を閉じた。

グイと強く腕を引かれて彼女は不知火を見上げる。

どこか辛そうな、そんな表情をしていた。

「どうしたの?」

「桜が、お前を連れてくんじゃないかって...わるい」

ばつが悪く、不知火は空笑いをしながらの腕を掴んでいる手を離した。

それを追うようにが一樹の手を握る。

?」

彼女は不知火を見上げてそして目を細めた。

「ね、一樹。結婚しよ」

「は?」

きょとんとして不知火は思わず声を漏らした。

「や、何だ?」

「あら、今わたし振られたのかしら?」

真顔で聞かれて「いや、振ってない!」と不知火は慌てて否定する。

「じゃあ、承諾してくれるの?」

「いや、うん。...というか、どうした突然」

「うん。まあ、ほら。お互い仕事も随分と落ち着いてるし、良いんじゃないかなって」

何だか不知火が不安そうにしていた。

その原因はにはよく分からない。漠然とした不安なのか、それとも彼は過去にそういう別れがあったのか...

しかし、そんな不知火の表情を目にしたは彼に愛おしいという気持ちを伝えたいと思った。

そうしたら、出てきた言葉が『結婚しよ』だった。

自分でも驚いたが、常々思ってなくもなかったのでまあ、いいやとそのままプロポーズを撤回しないで話を進めている。

話を進められている不知火はかなり動揺している。

彼女とのそういう未来は描いていた。

しかし、プロポーズは自分から、みたいなことを常々思っており、それこそムードとか考えた方がいいのかな、と研究していた途中なのに時間切れとなったらしい。

「俺より先に言うなよ...」

困ったように笑って不知火が言う。

は安心したように睫を伏せた。

風が優しく頬を撫ぜる。

「あ、」と不知火が声を漏らした。

「なに?」

「お前の頭に桜の花が落ちてきた」

花びらではなく、花が一輪そっと落ちてきた。

「へ?」とが頭に手を遣るが、不知火がそれを止める。

「桜のティアラだ」

目を細めて不知火が言う。

「一樹ってたまにキザよね」

「ははっ、照れたのか。は時々どうしようもなく可愛いな」

「一樹!」

からかわれたはムキになって窘めるように彼の名を呼ぶ。

不知火はそのまま腰を屈めてと唇を合わせる。

「どうか私と結婚してくださいませんか、桜の姫」

間近で目をまっすぐに見て不知火が言う。

は不知火から視線を外すことが出来ず、躊躇いがちにコクリと頷いた。

「ありがとうございます。私の一生をかけてあなたを幸せにすることを誓います」

「もう!一樹!!」

居た堪れなくなっては不知火の胸を叩く。

「ははっ、本当には可愛いなー」

自分の胸を叩くの手を取って、不知火は歩き出す。

「来年も、再来年も。この先ずっと一緒にこの桜を見ような」

不知火の言葉には幸せそうに頷いた。









桜風
12.5.24


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