| 「一くん。わたしと結婚してください」 そう言ってが覗うように一を見上げる。 と一が付き合い始めて、5年が経った。 大学に入学して少しして出会い、お互いが惹かれた。 大学を卒業して、は国内企業に就職し、一はプロサッカー選手としてイタリアのリーグに所属した。 超遠距離恋愛だったが、そんなに気にならなかったのは意外とまめな一の性格のお陰だったのかもしれない。 そして、本日は自分に使命を課していた。 一に自分の気持ちを伝えることだった。 イタリアのリーグがオフになり、日本に帰ってきていた一と本日久々のデートでそれを実行してみたが、彼は物凄く困った表情を浮かべていた。いつもの、大らかな笑顔で「いいぜ」と言ってくれるものと思っていた。 だが、それはが勝手に想像していた、都合の良い結末だった。 「ごめん、今の無し」 慌てて自分の言葉を、思いを打ち消す。 「何だ、ビックリしたじゃないか。今のなしなんだ。良かった」 心底ホッとしたように一が言う。 ズキンとの胸が痛んだ。 けれど、最悪の事態は避けることが出来た。たぶん、まだ傍に居ても良いはず。 「」 俯いていると頭の上から声がする。 慌てて顔を上げると、 「んじゃ。仕切り直しな」 と一が言う。 「仕切り..直し?」 何を仕切り直すのだろうか。 「、これ」 そう言って着ていたジャケットのポケットから一が小箱を取り出してに差し出す。 「えっと...」 困惑気味に、それはどうやら自分へのものらしいのでとりあえず受け取った。 そして、その小箱の中身を想像して、さらに困惑を深める。 なぜなら、その箱の大きさからして、先ほど振られたばかりの女がもらえるようなものではない。 「開けてみ」 対して、目の前の一は何か期待しているような表情でそう促した。 断る理由もなく、は箱を開けた。 「何..で?」 「何でって...え?」 一のあまたの上に『?』が並ぶ。 「このデザインじゃダメだったか?!」 「ううん、凄くステキ」 の言葉に、一は安堵の息を吐く。 「翼だと、絶対に変なのを勧めてきそうだったから、悟郎に相談したから大丈夫だと思ってたんだ。ホントは、俺一人で選べたら良いんだろうけど、こういうの苦手で」 照れ笑いを浮かべて一が言う。 「というわけで、仕切りなおし。、俺と結婚してください」 「え、えっと...」 頭が付いていかない。 「さっきさ、先にに言われたから正直焦ったんだ。けど、さっきのは、『無し』でいいんだよな?」 一の言葉にはきょとんとした。 「え、さっき一が『良かった』って言ったのって...」 「やっぱさ、プロポーズは男からしたいじゃん。こういう考え方は、古臭いかもしれないけど」 ポリポリと頬を掻きながら一が言う。 の瞳から涙が溢れる。 「え、どうした?あ..っと。俺じゃダメか?」 慌てる一には首を横に振る。 「ちがう。一くんが良い」 「えっと。じゃあ、何で泣いてるんだ?俺、に泣かれると、どうして良いかわかんないんだけど...」 そういいながら躊躇いがちに一がを抱き寄せる。 「わたし、一くんに振られたんだって思ったから」 「何で?」 心底不思議そうに一が言う。 は先ほどの逆プロポーズへの一の反応を見た自分の気持ちを口にした。 「あ、ごめん。ホントごめん。そっか、そうだよな。不安になるよな」 ぎゅっとを抱きしめる腕に力が籠もる。 「さっきも言ったけどさ。俺から言いたかったんだ。それなのに、に言われてちょっとビックリしたし焦ったんだ。勿論、の気持ちは凄く嬉しかった。でも、俺の変なプライドのせいでを傷つけたんだな。本当にごめんな」 一の謝罪の言葉には彼の腕の中でずっと首を横に振っていた。 ゆっくりと一がを抱きしめる腕の力を緩める。 「なあ、。指輪、嵌めても良いか?」 「うん」 そう言っては自分の左手を差し出した。 一は箱から指輪を取り出しての手に添える。 「一くん、震えてる」 「緊張するんだよ。あー、もう」 そう言って一はえいやっとに指輪を嵌める。 キラリと光る指輪が自分の指に嵌っている。 「すてき」とが呟く。 「」 呼ばれて顔を上げると、一の顔がすぐ傍にあり、彼の唇がのそれに触れた。 「、俺と結婚してください」 「よろこんで」 |
桜風
12.5.17
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