| 綺羅がインターホンを押して、菜月ちゃんが出てきた。 「いらっしゃい!」 そして玄関までまだちょっと遠いところにいるわたしたちに「こんにちは!」と挨拶をする。 「こんにちは」とわたしたちも口々に返した。 わたしたちが追いついたところで菜月ちゃんは綺羅を連れて家の中に入っていく。 「綺羅、つっこちゃんにも挨拶しなさい」 そのまま菜月ちゃんの部屋に直行しそうな綺羅に声を掛けると「はーい」と返事があり、「こんにちは!」と本当に挨拶だけして菜月ちゃんの部屋に直行していった。 それと入れ替わるように玄関に顔を出してくれたのは月子ちゃん。 「いらっしゃい。どうぞ」 「お邪魔します」 そう言って家に上がる。 「夜久さんは?」 旦那さんを名前で呼ぶのは抵抗があって、つっこちゃんはつっこちゃんだから旦那さんは苗字で呼ばせてもらっている。 「ちょっと買い忘れがあったから、お遣いに出てもらってる」 「行ってくれりゃ来る途中に買ったぞ?」 一樹さんの言葉にわたしも頷くと 「ちょっと席を外したそうにしていたから、丁度良かったのよ」 少し声を潜めてつっこちゃんが言う。 思わず一樹さんと顔を見合わせて、玄関の靴を見た。 大きくて品のあるピカピカに磨かれた靴は、颯斗くんの。そして、ヒールの靴があるけど、大きさから言ってつっこちゃんのじゃない。 「『だけじゃない』ってもしかして...」 わたしが言うと一樹さんはスタスタと家の中に入っていく。 「恒、一緒に行こう。颯斗くんがいるよ」 「颯斗おにいちゃん」 嬉しそうに呟いて、恒は「お邪魔します」と深々とつっこちゃんにお辞儀をした。 「颯斗!」 「一樹会長、お久しぶりです」 嬉しそうに握手を交わす2人の姿が目に入った。 「さん」 「久しぶりね、颯斗くん。そちらはご紹介してくださらないのかしら?」 からかうように言うと颯斗くんは少し照れたように睫を伏せて彼女を呼んだ。 わたしの隣に立って、足にしがみついている恒は初めて間近に見る金髪美女に目を丸くしていた。 紹介された彼女と握手を交わす。 彼女は膝を折って恒と視線を合わせてくれた。 ただ、やっぱりと言うべきか。恒はわたしの後ろに隠れてしがみついて離れない。 「恒君?」 優しく颯斗くんが呼ぶと彼の元へと駆けて行く。 「恒は颯斗は好きだよな...」 父親としては面白くないのか、一樹さんがそう呟いた。 「一樹さんは大抵大人気ないですからね」 わたしが言うと「そうかぁ?」と不満げに零す。 しかし、夜久さんが逃げ出したくなる理由がよく分かった。 颯斗くんが連れてきた彼女は、フィアンセと言うことなのだが、美人なのだ。 つっこちゃんは『可愛い』の分類だと思う。 だから、夜久さんは慣れていない美人さんを前に少しどうして良いか分からず、しかも外国籍の方だから言葉の方で少しハードルが上がっているのだろう。 その点、一樹さんはそういうのに動じない。 「さすが一樹会長だね」 つっこちゃんがこっそり声を掛けてきた。 「わたしも今同じことを思ってた」 そう言って顔を見合わせてクスクスと笑う。 「さ、手伝うよ」 そう言ってバッグからエプロンを取り出す。 「え、いいよ」 つっこちゃんの遠慮の言葉はここでは受け取らずに「お互い様。何を手伝ったらいい?」とエプロンを付けながら聞く。 「じゃあ...」 そう言ってつっこちゃんがサラダのドレッシングを作る仕事をくれた。 「私もお手伝いさせてください」 不意に掛けられた声に、料理本を覗き込んでいた顔を上げる。 颯斗くんのフィアンセだ。 「日本語、話せるの?」 「ゆっくりなら、会話が出来ます。颯斗に習いました」 つっこちゃんを見ると 「ちょっと待って。エプロン取ってくるから」 と言って火の前から離れる。 代わりにわたしがそこに立つ。 「あなたも音楽をされているの?」 聞くと彼女は頷く。 「楽器?」 彼女は首を横に振った。 「オペラ」 「声楽ってこと?そっか、オペラはまだ見に行ったことないなぁ...」 「今度、ぜひ来てください。あ、でも子供が小さいですね」 「預かってもらえるから大丈夫。子供達もそういうことに理解を示してくれてるのよ。小さいのにね」 そう言うと彼女は少し驚いたように目を大きくして「まだ小さいのに...」と呟いた。 「お待たせ」 そう言ってつっこちゃんはエプロンを彼女に渡す。 「じゃあ、ドレッシング作りの方を頼んで良いかな?」 「わたし、ここで良いの?」 「うん、私が包丁担当します」 役割分担を確認して作業に入る。 颯斗くんが居ないうちに馴れ初めとかこっそり聞いてしまおう。 |
桜風
12/04/07
15.2.20(再掲)
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