Beautiful days ‐ランチパーティ 5‐





食後、一樹さんは颯斗くんとともに庭とリビングとの境になっている大きなガラス戸のところを開けて庭を眺めながら話をしている。

菜月ちゃんと綺羅は颯斗くんのフィアンセにピアノを教えてもらっていた。

「コーヒー入ったよ」

つっこちゃんに声を掛けられて一樹さんたちに声をかけた。

「友情を温めなおしているところ、失礼します」

2人の間に顔を出す。

「温め直すも何も、冷めてなんかないぞ」

と一樹さんが笑う。

「ええ、そうですよ」

と颯斗くん。

「これは失礼しました。つっこちゃんがコーヒーを淹れてくれたので声を掛けに来たけど。持って来ようか?」

2人の顔を交互に見る。

「いや、行くよ」と一樹さん。

「そうですね」と颯斗くん。

2人はダイニングテーブルに戻ってきた。

「そういえば、声楽の方もピアノ弾けるんだね」

今聞こえている音は綺麗な音。きっと彼女だ。

「音楽の基本ですからね」

と颯斗くん。

「あ、ちゃん。星月先生、結婚されるんだってね」

「ホント?!」

つっこちゃんの情報に驚いて声を上げてしまった。

「え、知らないの?」

「まだ聞いてない。え、ホント?」

「水嶋先生がこっそり教えてくださったんだけど...ちゃんが知らないってことは、違うのかな?」

つっこちゃんが首を傾げている。

わたしは慌てて携帯を取り出してすぐにダイヤルした。

『もしもし?』

「琥太にぃ?」

『おお。、久しぶりだな』

「結婚するってホント?!」

『...姉さんか?それとも、夏姉か』

溜息交じりのその言葉が『本当だ』と代わりに言っている。

「おめでとう!」

嬉しくてそう言うと電話の向こうからは少し気恥ずかしいのか、ぶっきらぼうに『ありがとう』いう言葉が返ってきた。

「いつ報告に行く?琥太にぃ、逃げないように付き合うよ。春休みの方が良いでしょ?」

『...郁も同じようなことを言われたけど、一人で行くよ』

琥太にぃの声が凄く穏やかで、だから益々嬉しくて、少し泣きたくなる。

『心配かけたな』

琥太にぃの言葉に一瞬言葉につまり

「お互い様」

と返した。

『まあ、また色々と決まったら連絡するから』

「まずは、奥さんになる人の写真をメールで送ってね」

と言うと

『い や だ』

と返された。

「あとは郁ちゃんだね」

『郁も..まあ。そう遠くないんじゃないか?』

「何か情報掴んでるの?」

『勘だよ、勘』

苦笑交じりに琥太にぃが言う。

「そう。じゃ、またね」

そう言って電話を切った。

「つっこちゃん、その情報はどうやらホントの事らしいよ」

「そうみたいね」と苦笑混じりにつっこちゃんが言う。

「颯斗もだし。今年はめでたいな」

そう言って一樹さんが笑った。

颯斗くんは少し困ったように笑っている。

「僕は今でも、不安なんです」

「何がだ?」

一樹さんが問う。

「皆さんは、僕の家庭環境、ご存知ですよね?」

あまり詳しく聞いていないけど、それなりに知っているつもりで、そういうと颯斗くんはやっぱり困ったように笑った。

「僕は、両親の愛情に触れることなく育ってしまったので、例えば子供が出来たらどう接して良いか分からないんです」

「恒と遊んでくれてるじゃないか」

一樹さんが言う。わたしも思った。綺羅だって、颯斗くんが大好きだ。

「こういう言い方は、適当ではないのですが。恒くんや綺羅さん、菜月さんは僕の子供ではないので、相手が出来るんです。僕が注ぐ愛情が足りなくても彼らのご両親、一樹会長やさん、月子さんに夜久さんが沢山の愛情を持って接するのが分かっているから」

しかし、自分の子供となるとそれではいけないと颯斗くんが言う。

わたしと一樹さんは思わず顔を見合わせる。

「言っとくけど、俺だって自信満々にあいつらのとーちゃんをやってないぞ?」

一樹さんの言葉に颯斗くんは目を丸くした。

「そうなんですか?」

「星月学園で散々とーちゃんを経験したっていうのにね」

とわたしが茶々を入れると一樹さんが半眼になる。

「綺羅は奔放で言うこと聞かないし、恒だっての言うことなら聞くのに俺の言うことなんて殆ど聞かない。たまに、大人気ないのは分かってるけど腹立つぞ。あ、あいつらには内緒な?」

一樹さんが言う。

「子供と言ってもわたし自身じゃないからままならないことが多いし、自分だってままならないんだから、別の、自分ではない誰かなんだから仕方ないのよ。けど、颯斗くんはちゃんと『寂しい』を知ってるでしょ?」

颯斗くんが頷く。

「どんなときに寂しいか、悲しいかを知っている。少なくとも、全く知らない人よりは思いやりのある態度を取れるはずよ」

「僕は、一樹会長とさんを見ていて自分の家庭を持つことを決めました。最初は、幼い頃の経験から家庭を持つ気なんて全然なかったんです」

一樹さんを見ると、一樹さんもわたしを見ていた。

「2人がとても幸せそうで、綺羅さんや恒君も2人の事が大好きで。だから、僕もお2人のような家庭を築いてみたいって思ったんです」

「颯斗は颯斗だ」

一樹さんが言い、わたしも頷く。

「ウチのことをそう思ってくれるのは凄く嬉しいけど、颯斗はこれから彼女と一緒に家庭を築いていくんだろう?ウチと同じってのは、まずない。お前たちがお前たちの形の家庭を築いていくんだよ。月子だって、月子と夜久さんでこんなにいい家庭を築いているじゃないか」

「不安なこととか、困ったことがあったら連絡してよ。わたしたちって、ほら、星に導かれて出会った友達なんだしさ」

少しおどけて言うと颯斗くんはクスリと笑う。

「ありがとうございます」

「あ、コーヒーのお替りは如何ですか?」

つっこちゃんが声をかけてきた。

「もらおうか」と一樹さん。

「しかし、月子もコーヒーを淹れるのが上手くなったな。茶も」

「琥太にぃが物凄く寂しがってましたけどね」

笑って言うとつっこちゃんは「星月先生は...!」とご立腹となった。









桜風
12/04/19
15.3.6(再掲)


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