| 空を見上げる回数が増えた気がする。 信号待ちで、足を止めた颯斗は空を見上げた。 青い空に白い雲。だが、飛行機雲は伸びていなかった。 先日、街角でぶつかってしまった彼女の事を最近考える。 何となく、彼女の自分に向ける雰囲気は知り合いのような感じだった。 どこか懐かしむような... (そういえば、何て言っていましたか...) 自分の顔を見た時に彼女が思わず呟いた単語。 耳は良いと自負しているが、聞き漏らしてしまった。 女性を怪我させてしまったかもしれないと慌てて居たのだから、仕方ないとは思う。 颯斗は学生アパートに住んでいる。 音楽の道を志す学生たちが住んでいるアパートだから、防音設備も整っており、よって、ピアノを好きな時間に好きなだけ弾ける。 学校から少し遠いことと、部屋が狭いことが珠に瑕だが、贅沢も言ってられない。 自室の前に人影があった。 一瞬息をのむ。 ゆっくりと息を吐き、そして一歩踏み出した。 「遅いわよ。どこほっつき歩いてんの」 「すみません、風音姉さん」 約束などしていないのに、やってきた彼女の方が悪いとは思うが、そういうことを指摘しても何も話が進まない。寧ろ不愉快になる時間が長くなると知っている颯斗は謝罪を口にした。 部屋の鍵を開けて彼女を促す。 コツコツとヒールの音が響く。 その音はどこか威圧的で、颯斗は苦手だった。 「紅茶でいいですか?」 「ああ、要らないわよ。すぐに帰るし」 では、なぜ来たのだろうかと思いながら颯斗は首を傾げると 「これ」 と姉が封筒を差し出してきた。 受け取った颯斗はやはり事態を飲み込めずに首を傾げる。 「これは?」 「招待状。あんた覚えてる?小さいころに、お父様のご友人の様が何度か家に来たの」 (...) 「あそこの下の子があんたと同じ年で。んで、あんたと同じで落ちこぼれで。ウチに来たら一緒に遊んでたでしょ。えっと...、って言ったっけ?」 「あ...」 そう言えばそんなこともあった。 あの時は、少しだけさみしさが紛れていた。 「その子、こっちに住んでるんだって。んで、父親がこっちに顔を出すからってホームパーティ?するらしいのよ。その招待状。“青空家全員で”って言われてるの。あっちはあんたの事を知ってるし、いないっていうわけにはいかないから。 まあ、お父様に恥をかかせないように、せいぜい大人しくしておきなさい」 言うだけ言って彼女は去って行った。 颯斗は深く息を吐く。 “家族”と会話をするのにこんなにも緊張するのはどうかと思うが、仕方ない。 「ちゃん、か...」 名前を口にしてみると不思議と懐かしさがこみあげてくる。 家族に“居ない者”として扱われていた自分を見つけたのは、彼女だった。 来客があると、いつしか颯斗は自室にこもるようになった。 最初はきつく言われた。それを破ってみると叱られた。 いつしか、自ら進んで自室に籠るようになった。 誰も心配しない。誰にも声を掛けられない。 自分という存在がいるかどうか、在るかどうか良くわからなくなったときに彼女に会ったのだった。 |
桜風
15.3.26
ブラウザバックでお戻りください