| その日は来客があるという話は聞いていた。 しかし、時間が不明確で。 ただ、ホールがざわついているのに気付いた颯斗は慌てて自室に向かっていた。 すると、知らない女の子が立っていた。 見つかってしまった、と颯斗は慌てた。 「妖精さん?」 女の子は首を傾げてそう言う。 颯斗は自分の背後を見た。 何もいない。 「妖精さん」 再び彼女はそう言って颯斗に駆け寄った。 彼女は小さな両手で颯斗の手を取り、「あなた、妖精さん?」とかわいらしく問う。 しかし、当時の颯斗は自分が見つかってしまい、そのことで親から冷たい視線を向けられるのではないかとそれだけが気がかりになって彼女の問いには応えられなかった。 「!」 颯斗はビクリと震え、彼女は振り返る。 「おねえちゃんだ」 そう言った彼女は颯斗から手を放して、「またね、妖精さん」と言ってパタパタとその場から離れて行った。 ほっと息を吐きながら颯斗が自室に向かうと、部屋の前に母が立っていた。 「どこをほっつき歩いていたの」 冷たい声音で言われる。 「ごめんなさい」 彼女に届いたかどうかわからない謝罪の言葉を口にした颯斗は伺うように母親を見上げた。 「来なさい」 やはり温度のない声音で促された。 母親の後をついて行くと、客間に着いた。 「ごめんなさい、遅くなって」 先ほど自分に向けていたものとは全く違う声音で母が客室に入り、「颯斗」と入室を促された。 ここに居てもいいのだろうか、という疑問と母親に名前を呼ばれた喜びで複雑な心境だった颯斗がさらに複雑な心境となる。 先ほど廊下で出会った子が部屋の中にいるのだ。 「妖精さん」 弾む声で彼女が言う。 「これ、」 窘めるように彼女のそばにいる中年の男性、おそらく父親なのだろう、彼が少女の名を呼ぶ。 「すまないな、青空」 「いや。ちゃん、妖精さんって颯斗の事かい?」 自分に向けられないその優しい声音に颯斗は俯いた。 「さっきね、迷子になってたらね、会ったの。とてもきれいな子だったから...違うの?」 「違うよ」 彼女に向かってそう言った後、 「颯斗、挨拶しなさい」 と彼は自己紹介を促した。 「青空、颯斗です」 「はやとくん?」 首を傾げて彼女が言う。 「うん」 そう言った颯斗に彼女は自己紹介をした。 彼女は“”というらしい。 家が家に滞在している間は、颯斗は家族と一緒にいる事が許された。 だが、やはり自分の存在は家族にとって大きなものではないらしく、居ても居なくてもいいような空気はあった。 「はやちゃん」 不意にそう呼ばれて颯斗は振り返る。 先ほどのだ。 「はや、ちゃん...」 「だめ?」 「だめ..じゃない」 向けられる声や視線が友好的なもので、それは家族に求めても答えてもらえない、颯斗の憧れのものだった。 だから、素直にうれしいと思った。 「お庭に出たらダメかな?」 「庭?」 普段、颯斗は庭に出て遊ぶことはない。 自室に引きこもっている。それが一番安全なのだ。 「え、と...」 「いいんじゃない」 不意に聞こえた声は姉のもので 「行って来たら?お父様には私から話しておくし」 そう言われた。 「本当?行こう、はやちゃん」 そう言って彼女は颯斗の手を引いて外に向かって行く。 振り返ると姉が冷やかな視線を自分たちに向けていた。 |
桜風
15.4.2
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