| 颯斗はよく散歩をする。 気分転換だ。 練習する時間が減ると非難されたりするが、散歩をしていて得るものだってある。 (そういえば、一樹会長も...) 彼もやたらと校内を散歩していた。 彼の場合、生徒会の仕事をさぼりたくての散歩、校内巡回だったが、それだけではなかったのかもしれない。 これは、自分が生徒会長になった後に気づいたことでもあった。 この町は頭上を飛行機がよく通る。 飛行機のエンジンの音が聞こえるたびに颯斗は空を見上げた。 時々、青空に伸びる飛行機雲を見つけると彼女もこれに気づいているかなと思うようになった。 思えば、彼女と飛行機雲を見たのは幼いころの1回と、こちらで再会してからの1回で。 つまるところたったの2回なのだが、それはとても印象強い出来事だった。 いつもよりも遠くに足を伸ばしてみると、スタジアムが見えた。 そういえば、走っている人が多いなと今更ながら思う。 おそらく、競技の出場を控えている選手なのだろう。 どのレベルの大会なのかはわからないが、颯斗は足を向けてみることにした。 入場無料で、スタジアムのスタンドに上がる。 スタジアムは思いのほか広く、スタンドは見晴らしが良かった。快晴の今日は空を近く感じる。 陸上競技の大会は、競技場内で色んな競技が行われていた。 オリンピックでも陸上競技は色んな競技が同時に行われていたりすることを思い出した颯斗は納得した。 トラックとフィールドで内容が違うからそういうことができるのだろう。 ふと、トラックを見ると見たことがある人物がいて颯斗は目を丸くした。 の姿があったのだ。 丁度彼女がスタートをするところのようだ。 パンとピストルが鳴り、駆けだした。 彼女は滑るように走っていた。 何かに似ていると颯斗は思ったが、その時は思い出せず、そして彼女のゴールを見届けてそのスタジアムを去って行った。 学校の昼休憩、カフェテラスで昼食を摂っていると飛行機のエンジン音が聞こえた。 思わず見上げて、そして颯斗は納得した。 「ああ、そうですね」 彼女は飛行機みたいだった。 飛行機というか、飛行機雲のようにのびやかだったのだ。 少し前までは夜空を見上げていた。 当たり前のように、星を眺めて友人たちと語り合った。 (僕は“空”に助けられていますね...) ふぅ、とため息を吐く。 そして、ここ最近気になっていたことを思う。 彼女は自分のピアノを楽しみにしてくれていた。それは10年以上前のその場しのぎの約束だったのに。 自分が彼女に教えた星の物語がきっかけで道を選んだ。 知らないうちに、人とのつながりができていた。それは自分が見なかっただけなのだろう。 その日、学校が終わってからに連絡を入れた。 連絡先を聞いてから一度も連絡を入れていなかった。 自分のを教えそこなっていたので、向こうからの連絡がないのは当たり前ではあるが。 少し緊張しながらダイヤルをすると明るい声が耳に届いた。 「さん、颯斗です」 『はやちゃん?!どうしたの?困ったことがあった?今どこ?』 そう言ってとても心配された。 「あ、いえ。大丈夫ですよ、今のところ」 颯斗の返事に彼女は安心したような息を漏らす。 『じゃあ、どうしたの?』 「約束を、果たそうと思って」 そう言われて彼女は黙り込んだ。 「さん?」 少し不安になりながらも颯斗が声をかけると 『わたし、無理強いしてた?』 と返された。 「いいえ、そうではありません。僕があなたに聴いてほしいんです。ただ、僕は前にお話ししたように、僕の家族のようにずっとピアノの道にいたわけではありません。だから、さんのご期待に添えるものになるかどうかわからないのですが...」 その点が不安だった。 彼女の耳には自分以外の青空家のピアノが残っているかもしれない。 正直、今の自分は彼らには及ばない。 一度は逃げて、それでも戻ってきた自分の音を聞いてもらいたいと思った。 『わたしが期待しているのは、はやちゃんがピアノを弾く姿を見ることだよ』 彼女の声は笑っていた。 「では、申し訳ありませんが、僕の学校に来ていただけますか?レッスンルームを予約しておきますので」 『うん、わかった』 彼女と挨拶を交わして通話を切った。 彼女もサークル活動が忙しいので、約束は来週の金曜日ということになった。 (サークルだったんですか...) 音楽の特化している大学だから、そういうのをあまり聞かないが、確かに日本の大学でもサークル活動を耳にしたことはある。 取り敢えず、練習時間も確保できたので、彼女が落胆しない程度に聴いてもらえる音に仕上げておくべく、颯斗は帰宅を急いだ。 |
桜風
15.4.23
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