Diamond ring 8





 少し遅めの朝食を済ませると琥雪がキッチンに立った。

「何かお手伝いしますか?」

が言うと

「今は良いわ。あ、そうだ。じゃあ、お買い物お願いできる?」

買い物に行くなら車が便利だろうと「わかりました」と一樹が言う。

「一樹さん、休んでてください」

「良いって」とに言って「何が要るんですか?」と琥雪に声をかける。

「ちょっとメモするから待っててね」

そう言って琥雪が冷蔵庫の中身の確認を始める。

、着替えてこなくて良いのか?」

不都合はないと思ったが一樹が声をかけると

「あ、はい!ちょっと待っててください」

がリビングを後にした。

「琥雪さん」

「なあに?」

を家から遠ざけて何する気です?」

一樹の言葉に彼女は驚いたように振り返った。

「あら、わかった?」

「何となくの勘ですけど」

「そう、凄いわね。けど、一樹君にもナイショ。じっくり時間を掛けてデートしてきて」

琥雪の言葉に「了解しました」と一樹が返す。

「準備万端です」

が戻ってきたところで、琥雪は一樹に財布とメモを渡した。

「じゃあ、よろしくー」



にこやかに送り出されたたちは近郊の大型商業複合施設に向かった。

休日ともなれば人も多い。

数日纏め買いをする人も多いようだ。

「此処には良く来ていたのか?」

「いえ。ここは一昨年に出来たので、あまり来たことはないです」

「そうか...」

「それで、何を買えば良いんですか?」

「せっかくだし、ちょっとデートして買い物にしないか?」

「でも」というの手をちょっと強引に繋いで一樹は歩き始める。

「星月先生の家は居心地が悪いわけじゃないけど。琥雪さんが居たらとイチャイチャできないからな」

そう言っての顔を覗きこむと少し変な顔をしていた。

「変な顔してるぞ」

「な!どういうことですか!!」

ムキになるが一層可愛くて思わずキスをしたら「一樹さん!」と怒られた。

「あーあー、悪かった。けど、可愛いお前が悪いんだぞ」

「人のせいにしないでください」

そう言ってはさっさと歩き出す。怒っていても、一樹の手は離すつもりはないらしい。

てくてくと適当に歩いているとフードコートに出てしまった。

先ほど朝食を取ったからな、と思っていたのだが

「一樹さん、アイス食べませんか?」

が提案した。

「大丈夫か?」

「何がですか?」

きょとんとが見上げる。

「朝食からそんな時間はたってないぞ?」

「わたし、基礎代謝が高いので大丈夫です」

つまりは、少しお腹が空いたということらしい。

なるほど、と一樹は頷く。

「ストロベリーとバニラのソフトクリームが良いです」

「欲張りだな」と笑って一樹は店に向かう。

昼前だが人が多いのでには少し離れたところで待つように言ったのだ。


両手にと自分の食べるアイスを持って彼女の待つ場所に向かうと彼女の姿が見えない。

居ないのではなく、自分の視界から見えないだけで、彼女はちゃんと先ほどと同じ場所にいる。



一樹が声をかけると彼女は駆けてきた。

が見えなかったのは男に声を掛けられていたからだ。

一瞬の姿が見えなくて、どきりとした。昨年の秋の出来事を思い出したのだ。

名残惜しそうにを見ている男を睨みつけた一樹は「行くぞ、」と少しだけ不機嫌にに声をかけて歩き出す。

「はい」と返事をしては少しだけ小走りで一樹の後を追う。

一樹が向かったのは屋外だった。

にアイスを渡し、壁に背を預ける。

「あの、一樹さん」

「...なんだ?」

「怒ってますよね?」

断定されて一樹は吐きたい溜息を呑んだ。

「そう見えるか?」

「はい。自慢にならないのは分かってますけど。人の顔色を覗って過ごしてきた時期が長いので間違いないと思います」

確かに、自慢にならないが彼女の処世術だったのだ。仕方ない。

「俺はな、今腹立てても仕方ないことに腹を立てているんだ」

よくよく考えたら星月学園はと月子以外は教師も含めて全員が男で、たとえ今年女子が入学していたとしても男子が断然多い事実に変わりはないだろう。

の場合は颯斗が同じクラスだから変な虫はつかないだろうとか思っていたが、それはつまり颯斗がいつも一緒にいるってことで。

それはそれで面白くない。颯斗だってのことを憎からず思っているのは見ていて知っている。

なにより、の無防備なところが心から心配なのだ。

さっきのも、彼女が無防備だったから声を掛けられたはず。体が小さいのは仕方ないが、その無防備なのはどうにかならないだろうか...

「一樹さん」

「なんだー」

「アイス、溶けてますよ」

「へ?」

確かにアイスが溶けている。

「ほら、手に...」

はちゃっかり食べ終わっていた。

バッグからティッシュを取り出して一樹の手を拭き始める。

「何ではこうも可愛いんだろうな...」

一樹が呟くとの手がピタリと止まる。

「つれて帰って誰の目にも触れさせたくない」

「あの、一樹さん?」

「けどなー、それは無理だし。俺のそんな狭い心でお前の自由を奪ってしまうのは俺自身が許せないし」

何か不穏なことを口にしている。これはたぶん、無意識だろう...

「よし、決めた!」

そう言って一樹はを見る。

「何を、ですか?」

「行くぞ!」と手を引かれては慌てて「一樹さん、アイスは最後まで食べてください」と訴える。

「あ、忘れてた」と呟いた一樹はパクパクとあっという間にアイスを平らげ、「手も洗ってください」というに「分ってる」と頷いて汚れていない方の手での手を取り、店内に戻った。









桜風
13.8.2


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