Diamond ring 10





 星月の家のインターホンを鳴らすと家の中から賑やかな足音が近付いてきた。

しかし、昨晩の琥雪のそれとは少し違うようで、数も多い気がする。

ドアが勢いよく開けられて

ちゃん!」

と彼女を熱烈に迎え入れたのは中年の男だった。

「おじさん...?」

言われて見れば、何処となく琥太郎に似てなくもない。

「む...」

彼は一樹を見ると少しだけ不機嫌になった。

「初めまして、不知火一樹です」と一樹が挨拶をすると「初めまして。ちゃんの後見人の星月幸之助だ」と凛々しい声を出して言う。

ちゃん、一樹君お帰り」

キッチンに立っている琥雪が声をかけると「一樹君だと?!」と幸之助は驚いて妻の元へと駆けていった。

...」

「あの人が、星月学園の創設者です。琥太にぃの前の前の理事長です」

そして、玄関の靴を見て「琥太にぃの前の理事長も居る可能性が高いです」と一樹に言う。

何か、怒涛の勢いでの身内に会っているな、とそっと溜息を吐いた。


ちゃーん」

リビングに入ると、はやはり熱烈な歓迎を受けている。

キッチンでは幸之助が妻に向かって何か訴えているし。

賑やかな家だな、と思った。

琥太郎を見ているとそんな家には思えないが...

「あら?この子がさっき母さんが言っていたちゃんのいい人ね?」

『いい人』って表現は中々古めかしい気もする。

「お久しぶりです」と一樹が挨拶をすると彼女は慌ててに耳打ちをする。

「知り合いだったかしら?」

「春姉ちゃんは理事長やってたし、一樹さんは1年のときから生徒会長だったらしいから顔を合わせたことくらいあるんじゃないの?」

一生懸命記憶の糸を辿ったがダメだった。

「久しぶりね」

仕方ないので、覚えてないけど笑顔で応じることにした琥春はにこりと微笑んだ。

ところで、先ほどからいい匂いがする。

がキッチンに向かうと「さ、ちゃんも一樹君もテーブルに着いて」と言われた。

とりあえず、昨日腰を下ろしたところに座ると部屋の電気が消された。

「わ、」とが声を漏らす。

「はーい、2人とも。誕生日おめでとう」

そう言いながら琥雪がやってきた。

「おお」と一樹が呟く。

琥雪が持っているのはバースデーケーキだ。おそらく彼女の手作りなのだろう。だから、ゆっくりデートしてこいとか言ったのだ。

「2人の年の分ろうそくを挿したら大変なことになるから1本ずつね」

彼女が説明したとおり、ケーキには火の点いたろうそくが2本立っていた。

「さ、吹き消して」

促されてと一樹はお互いの顔を見合わせて息を合わせてろうそくの火を吹き消す。

星月家の3人から拍手が起こり、たちも拍手した。

ちゃんは今年で18歳ね。一樹君は19歳か」

そう言いながら琥雪がケーキをカットしていく。

「あ、俺は1年留年しているので今年で20歳です」と一樹が言うと「あら、大人なのね」と言われた。

一樹は苦笑しながら頷いていた。

そうか、大人だ...

ふと、は改めて思った。

自分はまだ子供だが、一樹は大人。

同じく高校に通っていたときは2歳の年の差なんてあってないようなものと言った感じだったが、高校と大学と生活している場所が違うと余計にそれを感じてしまう。

「な、

声をかけられて慌てては顔を上げた。

「はい?」

「琥雪さんの焼いてくれたケーキ、美味いなって言ったんだ」

「あ、はい。おばさんは料理が上手ですから」

の言葉に琥雪はにこりと微笑んだ。



「良かったのか、こんな早めの時間に帰って」

星月学園に向かいながら一樹が言う。門限は20時だからまだ時間に余裕はあるのだ。

「だって、いつまでも帰れなくなりますよ。春姉ちゃんだけならまだしも、おじさんがいるから特に」

苦笑しながらが返すと「そうかもな」と一樹が苦笑した。

帰ると言ったを何とかして引きとめようと必死だったが妻に笑顔で「幸之助さん?」と名前を呼ばれて敢え無く撃沈。

「夏休みは帰っておいでよ」と訴えられたのでそれは約束して星月家を出る。

「一樹さん」とが呼ぶ。

「なんだ?」

「昨日、今日。ご迷惑をおかけしました」

そんなことを言われて一樹は驚いた。

「迷惑?」

「だって、突然泊まるようにっていわれて困りませんでしたか?」

「あー、まあ。困ったといえば困ったけど。別に迷惑じゃないぞ。ただ、まあ。心の準備が出来てなかったからそこはちょっと、な」

そう言って苦笑する。

「心の準備、ですか?」

「ああ、心の準備だ。いつかご挨拶をする日が来るのは分っていたけど、こんなに早くお会いすることは想像してなかったからな」

さらりという一樹に驚いたは思わず言葉を失い、そのまま車内で静かに過ごした。









桜風
13.8.16


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