Diamond ring 12





 夏凛の勤務地に向かう前日にメールが送られてきた。

夏凛には用事があるので、出迎えはそれなりに使えるやつが行くと書いてあり、写真が添付してあった。

「あ、この人だ...」

直感で分った。この人が夏凛の彼氏なのだろう。

名前は『小鳥遊亮』というらしい。


飛行機に乗って、空港に降り立つ。

少し肌寒い。

夏凛のメールには長袖推奨と書いてあった理由が良くわかった。

指定されている出口に向かっていくと「あ、ちゃんだ」と声が降ってきた。

おそらく、姉と同じくらいの背の高さだろう。

「小鳥遊さんですよね。です。よろしくお願いします」

ぺこりと頭を下げた。

「うん、小鳥遊亮です。夏凛ちゃんに頼まれて、お姫様のお迎えに上がりました」

にこりと微笑んだ彼の笑顔は人懐っこい。

「荷物、持とうか?」

「大丈夫です。そんなに重くないですから」

そう言っては自分の鞄を持って彼の後をついて歩く。

「姉は用事があるんですよね」

「うん、他人の一世一代のバカに付き合ってるの。間に合うと良いね」

何が『間に合う』なのだろう。


車での移動だが、窓の外にはのどかな風景が広がっている。

ちゃんって呼んでも良かったかな?」

「あ、はい」

「ありがとう。ちゃんは、今年受験生だ?」

「そうです。あの、小鳥遊さん。不躾な質問しても良いですか?」

覗うににこりと微笑んで

「僕が勇者だよ?」

と彼女の質問を聞く前に答えを先回りして答える。

「あ、」と声を漏らしては苦笑した。

「晴秋君から聞いたんだろう?彼も中々言うね」

「噂だって言ってましたよ」

「ま、否定しないけどね」

肩を竦めて彼はそういい、話を変えた。

凄く話題の多い人だと感心する。

全く退屈することなく、目的地に着いた。

「先に部屋に荷物を置いてしまおう」

そう言って案内された部屋は夏凛の部屋ではないようだ。

「一応、同じ部屋にってのは無理だから」

「そうなんですか?」

「うん、まあね」

言われて特に気にすることなくは荷物を置き、小鳥遊について歩く。

「さ、ここだよ」と通されたのは道場のようで、中から聞きなれた声が2つ。

は慌てて中に入った。

「何で?」

呆然と呟く

「どうやら夏凛ちゃんがね、ちゃんと交際したいとかほざく野郎は自分を倒して言えって言ってたらしくて。倒しに来た一世一代のバカがいたんだよ」

と穏やかな声で小鳥遊が応じる。

姉に投げ飛ばされているのは一樹だった。

柔道は、星月学園でも体育の授業で必須だった。ちなみに、女子である自分は見学であったが...

そのため、一応受身とかは取れるのだろうが、学校の授業で齧っただけの一樹が本格的に、自分の身を守るために修練を積んだ夏凛に勝てるはずがない。

既に一樹は『ボロボロ』と表現するに充分だった。

また投げられた一樹を見ていられなくなっては駆け出したが、姉の視線に射竦められて足が止まる。

夏凛は無言での動きを止めた。

「ま..まだまだ」

「一樹、本気であたしに勝てると思ってるの?」

「俺には、これしかないんですよ」

そう言って一樹が夏凛に突進していく。

また畳に叩きつけられた。

凄いな、と小鳥遊は思った。

はどんなに一樹が畳に叩きつけられても視線を外さない。彼女の責任をちゃんと理解している。

「これしかないってどういうこと?」

「『諦めないこと』です」

「なるほど」

バシンとまた畳に叩きつけられて一樹は呻く。

「そろそろ降参したら?体中が痛いでしょう?何回か受身失敗してるし」

「できません。自分から諦めることだけは...」

ふらふらの一樹に夏凛は一切容赦がなかった。

再び畳に叩きつけられた一樹はもう起き上がれなかった。

「えーと、勝者は...」

今更宣言するのも憚れる。

一応、立会いを頼まれた夏凛の同僚は宣言をしようとしていたが「一樹よ」と夏凛が言う。

「あたしの負け。それで良いわ。良い?証人になってよ」

立会いを頼んだ同僚の他に野次馬で来ていた職場の者達を見渡した。

「あたしの負けよ」

堂々と宣言する。

ざわりと空気が動いた。

夏凛が負けを認めた。あの天上天下唯我独尊、現実世界のジャイアンが、負けを認めた。

大事件だとその場が騒がしくなる。

!もう良いわよ」

呼ばれたは駆けて一樹の傍に膝をつき、心配そうに顔を覗きこむ。

「落ちてるだけだから、すぐに目を覚ますはずよ。あー、無駄に体力のある若者に付き合うもんじゃないわー」

そう言ってその場から離れる。

「まあ、このまま放置ってのもアレだから。彼の宿泊部屋に運んであげようか」

そう言って小鳥遊は一樹をひょいと担いだ。

一樹よりも小さいのに簡単に担ぐ。が目を丸くしていると「整備も中々体力勝負なんだよね」と笑って言う。


小鳥遊の後をちょこちょことついて歩くを見て夏凛は盛大な溜息を吐いた。

「ねえ、

同僚に呼ばれて「なに」と不機嫌に返す。

「アンタの妹って中学生だったっけ?」

「今年、大学受験生よ」

夏凛の返事に一瞬呆けた同僚は「ええーーーー??!!」と声を出す。

「可愛いっしょ?」

「サイズ的にもね。ホントに妹なの?」

「可愛いっしょ?」

同じ言葉を繰り返す夏凛に同僚は目を丸くしてが出て行って既に姿のないドアを見た。

「海の方のとも兄妹なのよね?」

「残念ながら、アレも血の繋がったあたしの弟よ」

「ええーーーーー???!!」

「ま、アキは可愛くないもんね」

「アンタそっくりよ」

そんな言葉を返されて夏凛は心底嫌な顔をした。









桜風
13.8.30


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