| 「一樹さん。さっき、お姉ちゃんの考えていることが分ったって言ってましたけど、何が分ったんですか?」 不意に話を戻されて一樹はちょっと驚いたが、「ああ、そうだな」と頷く。 「夏凛さんに、勝てなくても良かったんだよ」 「はい?」 だって、自分を倒さないと認めないって言っていたのではないか? 「さっき、も言っただろう?俺が無視してしまっても良かったんじゃないかって」 は頷く。 「たぶん、夏凛さんもそうだったんだよ。それはそれで仕方ないくらいには思っていたと思う。だって、夏凛さんがいくら反対してもがどうしてもって言えばどうしようもないだろう?」 おそらく、そうなのだろう。 「夏凛さんは、安心したかったんじゃないかな」 「安心ですか?」 「夏凛さんの仕事は、本人は引退が早いって言ってたけど、現役の間はずっと危険の高い職業だろう?晴秋さんだって同じだ」 は頷く。 「俺は、たぶん夏凛さんに覚悟を問われていたんじゃないかな」 星月の家でも覚悟を問われた。 の経験してきた別れ。それが再びあるかもしれない。そのときにを支えることが出来るか、守ることが出来るか。 おそらく、琥雪が本当に聞きたかったのはそこだったのではないかとあのあと、ふと思った。 そして、夏凛もそれを問いたかったのだ。 初めから負けるとわかっていることに対してどんな姿勢を見せるか。 負け続ける中で心は折れないか。 簡単な道に逃げてしまうことは往々にしてあるし、時には逃げることも必要だ。 だが、夏凛はもしかしたら居なくなる自分のことを思って安易に逃げることを良しと考えていなかったのかもしれない。 自分が夏凛から逃げていたら先ほどから聞いたように彼女はを一人前として認めなかったと思う。 言い方は悪いが、夏凛にとっては付属物で、まだ手放さず自分の保護下に大切に置いておこうと考えていたかもしれない。 そして、夏凛の敗北宣言により合格をもらえた。 「でも、一樹さんボロボロです。お姉ちゃん、酷い」 拗ねて言うに一樹は苦笑した。 「悪かったな、弱くて」 「そんなこと言ってません!」 振り返って訴えるに再びキスをする。 「一樹さん...」 ちゃんと話を聞いているのかと訴えるに 「だって、目の前にが居るんだから仕方ないだろう」 としれっと言われた。 「そういえば、俺は何でこの部屋で寝ていたんだ?誰に運んでもらえたんだ?」 まさか、夏凛さんか?! 蒼くなる一樹に「小鳥遊さん、お兄ちゃんの言うところの勇者さんです」とが答える。 「勇者..って夏凛さんの彼氏の?!」 「はい。ひょいと肩に担いで運んでくれました」 米俵のように、とが付け加える。 「まあ、お姫様抱っこじゃなくて良かったよ」 苦笑して言う一樹に「小鳥遊さん、『それだけは絶対に嫌だ』って言ってました」とが言う。 『小鳥遊』というのが勇者の名前だな、と一樹は記憶する。 ドアがノックされてバシンと派手に開く。 「夏凛ちゃん、派手...」 「ー!」 呆れた口調の小鳥遊を無視して一樹に後ろ抱っこされているを引っぺがす。 「明日は丸々オフだから!明後日はちょっと仕事で難しいけど、寧ろその仕事を見てねー。珍しいから」 ...あれ?とは首を傾げる。 姉は妹離れをしたのではないのだろうか? 「不知火君、調子はどうだい?」と小鳥遊が顔を覗きこんでくる。 「あ、頑丈なので」 「そのようだね」と笑って小鳥遊は夏凛を見る。 「夏凛ちゃん、不知火君に用事があるんじゃなかったの?」 「ない!に用事があるのー」 「はいはい。ちゃん、食堂に移動しようねー」 そう言ってを連れて小鳥遊が外に出て行った。 残された一樹は何だか居心地が悪い。 「アンタの推測どおりよ。けどね、あともう1個山があるの忘れないことよ。あっちは本気の本気だから。最後の砦だし」 素っ気無く言われた。 「もう1個の山って..晴秋さんですか?」 「それ以外に何かある?」 アレこそ大変そうだ... 「一樹」 そういえば、一樹と呼ばれている。先ほど道場でも同じように名前で呼ばれていたような気もする。 「ひとまず、は任せたから」 「俺、留学するんです」 「うん、すれば?」 しれっと返されて一樹はちょっと肩透かしを食らった気がした。「を置いて!」とか言われるかと思っていたのに... 「留学如きで離れるなら離れてしまえ」 「俺は、もうハタチすぎたので一般的には大人の仲間に入ったかもしれませんけど、夏凛さんや晴秋さんみたいに社会的な地位があるわけでも、経済力があるわけでもありません。まだ親に面倒見てもらってます」 「うん」 「けど、だけは諦めません」 じっと夏凛の目を見て一樹が言う。夏凛の目がついを細められた。 「今、自分で言ったようにアンタは大人だから。自分の行動、発言に責任を持ちなさい。途中で放り投げることだけはやめなさい。のことは特に。ダメだと思った速攻きっちりと終わらせなさい。きっちり終わらせたら逃げることを非難する気はないけど、半端なことだけはしないで」 「絶対にしません」 睨むように夏凛をじっと見ていた一樹の前に彼女の手が伸びる。 「いてぇ!」 「何で避けないかなぁ...」 苦笑しながら夏凛が言う。生意気だと思ったからデコピンをしたのだ。 「ほら、食堂いくよ。動けるんでしょう?」 そう言って夏凛はドアに向かって歩き出し、ぴたりと足を止めた。 「ああ、こっちに泊まってるときあんまりいちゃこらしてたらぶっ飛ばすから。あたし的に目障りだと思ったらぶっ飛ばすから、こっそりと」 にこりと微笑んで彼女が言う。 あー、入ってきたタイミングと言い、何となくそう思っていたんだよなー。 どうやら夏凛はドアの外で聞き耳を立てていたらしい。 本人に言うと「タイミングを見計らってたの!」と言いそうだが、盗み聞きには変わりない。 「一樹!」 「あ、はーい!」 返事をしてベッドを降りる。 体中がみしみし言うが、気分はスッキリしている。 一樹は夏凛の後に続いて食堂へと向かった。 |
桜風
13.9.13
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