Diamond ring 15





 食堂に向かうと、人だかりがある。

「なに?」

首を傾げる夏凛だが、一樹はもちろんわからない。

「面白いよねー」

いつの間にか傍に来ていた小鳥遊が笑う。

「あれ、何?」

「夏凛ちゃんの宝物をみんなで愛でてるの」

を?!」

夏凛が声を上げる。

一樹は慌てて人だかりに近付いた。しかし、体のあちこちが居たいのであまり早くはない。

やっとの思いで人だかりの中心が見えるところまで行くと確かに、が居た。

おじさんたちに声をかけられて困っているようだ。

」と思わず声をかけるとは顔を上げて嬉しそうに「一樹さん」と名を呼ぶ。

のことを知らない者でも一樹のことはそれなりに知られていた。

ざわりと空気が動く。

そう、一樹は夏凛に挑戦したある種の勇者なのだ。無謀な馬鹿という評価もあるだろうが、既にその出来事は夏凛の職場では噂になっているし、証人だって結構居る。

その勇者が彼女のことを名で呼んでいる。

まずい、と周囲は気付いた。

、大丈夫?!」

そうに声をかけたあと、の相手をしていた、というか一方的に可愛がっていた上官ににこりと微笑んだ。


「妹です」

またしても周囲がざわめく。

「あんなに小さいのに」とか「似てねぇ」とかそんな声が耳に届く。

夏凛は振り返り、「高田」「岩男」と苗字を呼ぶ。

どうやら、さっきの囁き声の主のようだ。彼らは縮み上がっている。

「ああ、そうか。今は大型連休だしな」

うんうん、と夏凛の上官が納得したように頷いていた。

さすが上官、と一樹は感心した。

「妹さんはいつまで居るのかな?」

「今日を含めてあと3日ですね」

夏凛が答えると、

「では、明後日の演習は見ていくのか。良い時に来たね」

と声をかけていなくなった。

そのさりげない逃亡に周囲は感嘆の息を吐く。

そして、残された周囲は、いつ逃げ出そうかとタイミングを計っている。

「はい、ちゃん」

トレイを持って戻ってきた小鳥遊が本人おススメの献立を彼女の前に置く。

食事を取ってきてあげると席を外し、戻ってきたらあの人だかりが出来たことには本当に驚いた。

あまり時間を掛けたとは思えないのだが。

「ありがとうございます」

お礼を言って、代金を払うといったがそこは夏凛が「奢らせなさい」と笑顔で言った。

「え、でも...」

「いいよ。元を辿れば結局夏凛ちゃんの財布から出てるんでしょう?」

そう指摘されては複雑な気持ちになった。

夏凛は夏凛で小鳥遊を睨んでいる。

「これが小鳥遊さんのおススメなんですか?」

話題を変えようと一樹が言うと

「うん、ここのクリームコロッケは美味しいよ」

と頷いた。

「んじゃ、俺もそれにしよう」

そう言って一樹は食券売り場に向かった。

「...あたしも、夕飯食べるか」

夏凛もその場を離れる。


間を置くことなく、すぐに夏凛が戻ってきた。

「あれ、お姉ちゃん。ご飯は?」

「一樹が持ってくるって」

しれっと答えた夏凛だが、一樹に「持ってきてね」と食券を渡したのだ。

「いいですけど」

と少し不満そうに一樹が言うが、夏凛がそれを汲むはずなくスタスタとの元へと戻ってきたのだ。

暫くして一樹が両手にトレイを1つずつ持って戻ってきた。

「ご苦労」

そう言っての隣でふんぞり返っている夏凛の前に彼女の夕食を置き、一樹はの前に座った。

食事を済ませてそれぞれの寮に帰る。

やはり、口の端とか、口の中とか切っているから食事はつらいなと一樹が思っていると「不知火君」と声をかけられて振り返る。

小鳥遊だ。

「ども」と軽く会釈し、彼の手にあるものを見た。

「酒、ですか?」

「夏凛ちゃんに聞いたんだけど、君、ハタチすぎてるんでしょう?晩酌に付き合ってよ」

そんなことを言われる。

しかし、家でちょっと口をつけるくらいしかしていないのに、人の晩酌に付き合えるだろうかと思っていたが、この小鳥遊と言う男、結構強引なところがあった。

結局断りきれず、あまり飲んだことがないと言って、その点を納得してもらい、付き合うことにした。









桜風
13.9.20


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