Diamond ring 20





 一樹と共に生徒会室に戻ったは「一樹さん、コーヒー飲みますか?」と聞く。

しかし、それはすぐに訂正して「紅茶の方が良いですかね」と質問を変えた。

「どっちでもいいぞ、が淹れてくれるなら」

そう言って一樹はお気に入りのソファに座った。

「変わらないなぁ...」

「わたしたちもここが居心地がいいですからね」

紅茶を淹れる準備をしながらが言う。

「颯斗くんがよく、音楽部の先生から紅茶を貰うんです」

そう言いながら沢山種類のあるティーバッグの中からひとつ取り出した。

そういえば、自分が在学中もそんなことあったなと懐かしくなる。

「あ、郁ちゃんだ」

茶葉を蒸らしているが窓の外を見ると郁が歩いている姿を目にする。

「水嶋先輩?」

一樹が興味を持って窓際に向かってきた。

「ああ、本当だ。どうされたんだろうな」

「よく図書室に来てるみたいですよ。卒論に使う資料は此処が一番揃ってるって前に言ってましたから」

前に保健室で留守番をしていたら郁がやってきてそう言っていた。



「はい?」

一樹を見上げるとチュッとキスをされた。

驚いて目を丸くしていると

「俺が此処にいるのに、俺以外の男の名前を出しすぎだ」

とちょっと拗ねて言われた。

目をぱちくりとしたあと、は思わず噴出す。

「こら!笑いごとじゃないぞ」

「ごめんなさい」

謝るはどこか嬉しそうだった。

「嬉しそうだな」

「はい」

何故だろうと思っていると

「だって、一樹さんって大人なのに子供みたいに拗ねるんですよ?」

がいう。

「俺はまだ子供だよ」

やっぱり拗ねた口調で一樹が言い、は不思議そうに彼を見上げた。

「なあ、

「はい」

「...その紅茶、大丈夫か?」

蒸らすとか言っても随分放置しているぞ、と一樹が言うと「きゃー!」とが慌てる。

あたふたしながら何とか紅茶を淹れて一樹に出す。

冷蔵庫に入れておいたチョコレートをお茶請けにした。お徳用袋を見つけると思わず購入して生徒会室だとか保健室の冷蔵庫に保管してしまうのがクセになっているのだ。


「そういえば、一樹さんは颯斗くんたちにはもう会ってきたんですよね」

「おい、。さっき言ったばかりだぞ」

そう指摘されては肩を竦める。他の男の名前を出すなと言うことらしい。

しかし、これでは会話が出来ない。

「あ、じゃあ。つっこちゃん以外の誰かに会いましたか?」

なるほど、考えたな、と一樹は苦笑した。

「颯斗と翼にも声をかけてきたぞ。ひと段落ついたらここに来るって言ってたな」

なるほど、と納得しては机の上においていた書類に手を伸ばした。

「お留守番、頼んで良いですか?」

「何だ、。せっかく彼氏がこうして目の前に居るのに仕事か?」

一樹に指摘されてちょっとだけ後ろめたい。

しかし、そんなの姿を見て一樹は笑った。

「冗談だよ。副会長が忙しいのは知ってるからな。ちゃんと留守番しておくから行ってこい」

そういわれてホッとした表情を浮かべたに一樹はにやりと笑う。

「けど、忘れ物があるんじゃないのか?」

「...忘れ物ですか?」

筆記用具も持っているし、必要書類もこうして手にしている。

「行ってきますのキスだ」

「ここ、生徒会室ですよ?!」

が慌てて指摘すると

「今、俺達しか居ないぞ?」

確かに、以前キスは2人きりの時なら良いといった。一樹の在学中の話だ。

そのときは、確かに生徒会室でもキスくらいしていたが...

は意を決してソファに座っている一樹の元へと向かい、腰を屈めてキスをした。

「ははっ、顔が真っ赤だぞ」

「いってきます!」

「おーい、拗ねるなよー...」

ちょっとからかいが過ぎたかな、と思いながら彼女が淹れてくれた少し濃いめの紅茶を口にする。



が用事を済ませて生徒会室に戻ってきたときには、颯斗が一樹と話をしていた。

書類を持っていると言うことは丁度引継ぎ作業中なのだろう。

「ああ、さん。丁度良かった。すみません、此処の箇所なんですけど」

そう言って颯斗が書類から顔を上げて言う。

「なに?」

「去年、どのように処理されましたか?」

颯斗の手元の書類を覗き込み、昨年の事務処理の話をする。

暫く話し込んでいると「あー、ぬいぬい!」とからかいを含んだ翼の声がしてと颯斗が顔を上げる。

「なあなあ、そらそら。ぬいぬいがやきもち焼いてたぞ」

楽しげに翼が言う。

「うるさい!」

ゴツンと翼の脳天に一樹のゲンコツが落ちる。

「ぬー!本当の事を言っただけなのに...ぬいぬいは相変わらず横暴だ!」

「何だと、翼ぁーーー!!」

「懐かしいねぇ」とが呟き、「せっかく封印していたんですけどね」と颯斗が生徒会長の机の引き出しを開けてミニ黒板を取り出す。

さん、月子さん。耳を塞いでいてくださいね」

にこりと微笑んだ颯斗は黒板に爪を立てる。

「は、颯斗ぉ...」

「そらそら、やめてーなのだ...」

2人が崩れ落ち、「まったく、2人とも本当に変わらないんですから」と颯斗はどこか嬉しそうに呆れた口調で言う。

引継ぎが終了し、生徒会室を後にする。

「一樹会長、遅くなってしまったのですが、今日はお帰りになるんですか?」

颯斗が申し訳なさそうに聞くと

「あー、まあ。明日学校があるからな」

「バス、大丈夫ですか?」

月子が聞くと

「ああ、車で来たから大丈夫だぞ」

「車?!ぬいぬい、もう免許取ってるのか?」

驚いたように翼が言い、

「ああ、春休みの内にな」

と一樹が頷く。

だってもう免許取れる年だからな。大学入学前に取る人も少なくはないらしいぞ」

そんな話をしながら一樹を見送るために皆で駐車場までついて行った。

「じゃ、体育祭頑張れよ」

「はい。今日はありがとうございました」

颯斗が礼を言い、皆は口々に挨拶をした。

「おやすみなさい」とが言うと「おやすみ」と一樹が返し、車を走らせる。

未だ新しい生徒会メンバーが加わっていない生徒会だが、そう遠くない未来に新しいメンバーが加わることを一樹は知っていた。

先ほど皆が居るときに言おうかと思ったが、言わない方が良いと思って心の中にそっと仕舞っておいた。

「けどのヤツ、しっかりしてることはしてるけど、意外と隙だらけだしなぁ...」

唯一の心配事なので、彼女から新しい生徒会メンバーが加わった報告を受けたときには牽制する意味も込め、再び学園に足を伸ばそうと心に決めた意外と心が狭い一樹だった。









桜風
13.10.25


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