| 一樹と共に臨海公園に向かっていると人ごみが激しくなる。 少し不安になって繋いだ手をギュッと強く握ると「大丈夫か?」と一樹が振り返った。 「ごめんな、こんなに人が多かったら浴衣だと歩きにくいよな」 一樹が申し訳なさそうに言う。 「いえ、浴衣は大丈夫です」 意外と着慣れているのだ。 ただ、体が小さいと人ごみに流されそうで、そっちが怖い。 こんなところで迷子になったら探してもらうのに一苦労だ。 に気遣いながら一樹がゆっくりとした歩調で歩き、少しだけ開けたスペースを見つけてそこに向かう。 「大丈夫だったか?」 「はい。でも、迷子になってもちゃんと見つけてくれるんですよね?」 昨年、は星月学園の近くの神社の祭で迷子になった。 そのとき、一樹が言ったのだ。 「お前が迷子になってもオレがちゃんと見つけてやる」と。 そのときを思い出して一樹は苦笑する。 「けど、そんとき言わなかったか?『できりゃ迷子にはならないでくれ。とーちゃん、走って疲れたぞ』って」 言われても笑った。 「言われました」 「今だったら、確実にあの時以上に必死になって探すからそりゃ大変だ」 そんなことを言われてはきょとんと一樹を見上げた。 「可愛い後輩を探すのと、大切な彼女を探すのとじゃ全然違うだろう」 イタズラっぽく言われては俯く。 すると空に花が開いた。 「わあ!」 夜空を見上げてが歓声を上げる。 花火が上がるたびに嬉しそうに声を上げるを一樹はずっと見つめていた。 自分はこっちを見てるほうが良い。 ふと、が一樹の視線に気付き彼を見上げてにこりと微笑む。 本当に嬉しそうな、幸せそうなの笑顔にうっかり胸が詰まった。 こういう些細な、小さなことがもしかしたら本当の幸せなのかもしれない。 花火を見終わり、屋台を冷やかしながら駐車場に向かってふと一樹が気付いた。 「、着替えはどうする?」 「このまま帰ります」 「疲れないか?」 「大丈夫ですよ。それに、着替えるところがないですよ。お手洗いも人が多いですし」 の言葉に「辛かったら言えよ、休みながら帰るからな」と一樹が言う。 「はい」と素直に頷いたに安心して一樹は歩き出した。 一度走ったことがある道だから、と一樹はスイスイと車を走らせる。 しかし、その実。昨晩地図を見て予習していたのだ。 1回行ったことがあってものナビどおりだったし、免許取りたてだったから運転に集中していて道はうろ覚えだった。 しかし、やっぱりかっこつけたかったから昨晩地図を見て何処に行っても大丈夫なように粗方地図を頭に入れていた。 そのお陰では凄く驚き、「一樹さん、凄いです」と感動していた。 静かな住宅街に入り、もう少しでを送り届けてしまう。 「明々後日、お見送りに行きますね。みんなで」 「みんな?」 「颯斗くんに、翼くん。つっこちゃんは何とか都合をつけて行くって息巻いてましたよ」 「本当に『みんな』だなぁ...」 懐かしい顔ぶれを思い浮かべて一樹は苦笑した。 なるべく颯斗の邪魔をしたくなくて学校には顔を出さないようにしている。 それなりに自分の影響力は知っているから。 マンションの前で車を停めた。 「今日はありがとうございました」 はそう言ったあと「あと、ごめんなさい」と小さく言う。 シートベルトを外したを一樹は引き寄せてキスをする。 長く、余計に離れ難くなりそうなキスだが、もそれに必死に答えていた。 ゆっくり唇が離れ、一樹がの首筋に顔を埋めた。 チクリと小さな痛みに「んっ」とは思わず声を漏らす。 から離れた一樹は少しだけ困った表情を浮かべ、「キスよりも、ちょっと先だ」と言う。 何のことだろう、とは先ほど小さな痛みを感じが箇所に触れた。 「さ、そろそろ帰らないと。琥雪さんが心配してるだろう」 「あ、はい」 「玄関まで送るか?」 「大丈夫です。わたし、強いんです」 「それは知ってるが、用心はしろよ」 そういった一樹に「はい」と返事をしたは車を降りた。 「じゃあ、明々後日な。今日、帰ったらメールする」 一樹が言うと少し寂しそうには頷いた。 「おやすみなさい」 「ああ、おやすみ」 がマンションのホールの中に消えた後も一樹は暫くその場に留まった。 「...あー、俺のバカ」 そう呟き、一樹は車を走らせる。 結局抑えられなかった衝動。何だかんだで自分こそ、不安だったり寂しかったりしているのだ。 「やっぱ、の方が強いだろう...」 きっと明々後日の空港も笑顔で見送ってくれるはずだ。 寂しいと口にしながらもそうするに決まっている。 |
桜風
13.11.29
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