Diamond ring 28





 朝、少し早い時間に携帯が着信を告げる。

寝ぼけ眼で通話ボタンを押して「もしもし」と返した。

『おはようございます、一樹さん』

耳元で聞こえた声は聞きなれたもので、だから、一樹も普通に「あー、おはよ」と返事をした。

しかし、その声の主である自分の恋人であるは今日本に居て、高校生だから時差を考えればまだ授業中のはずで、そこに気づいた一樹は「は?!」と声を上げて、ついでに跳ねるように体を起こした。

耳元で嬉しそうなの笑い声が聞こえる。

?!」

『はい』

返事がある。本人のようだ。

「お前、授業は?!」

休憩時間、ではないはずだ。

腕時計を確認した。時差が設定できるそれを見ると授業の只中の時間だ。サボったのか??

『今日は、恒例の研究発表会です』

というの返事でやっと合点がいった。

「あー、そうか。神話科はそんなもんがあったな...」

毎年秋に研究発表会、要は学会の一種なのだろうが、そういったものがあり、神話科と星座科は合同でそれに出席していた。

は神話科なので、これまで文化祭の準備の時期に数日居なかった。だけではなく颯斗も一緒なので生徒会的には戦力が2人分抜けるので、ちょっと辛かったのを思い出す。

「じゃあ、今は休憩時間か?」

『今発表されているのは、ちょっと興味ないものだったので。レポートを書く題材にはしないつもりなんです』

レポート提出があるのは今初めて知ったことで、「そうかー」と相槌を打つ。

『あの、凄く今更ですけど。一樹さん、今の時間は起きるのに早すぎましたか?』

恐る恐る聞かれて思わす苦笑を漏らした。本当に今更だ。

「本当に今更だな」

『ごめんなさい!』

責められたと勘違いしたのか、が謝る。

「けど、丁度いい時間だよ」とフォローすると『本当ですか?』と聞き返された。

「本当だ。それに、今日はいい日になりそうだ」

『晴れてるんですか?』

の言葉にまたしても苦笑をしそうになった。

「んー?天気も良いけど、の声を朝一で聞いた。いい日になるはずだろう?」

「そうなると、嬉しいです」

と弾んだ声が返ってきて、一樹も嬉しくなった。

「なってるんだよ。あ、そうだ。悪い、まだ返事書いてないんだ」

手紙という形も中々良いなと思った。そのときの気持ちというのが分かる。

しかし、貰う分はそうでも、書くとなると中々筆不精なところがあるから返事が出せなくて心苦しくもある。

そう思って謝ったのだがは『いいですよ』と笑っている。本当に気にしていないみたいで、少しだけ安心した。

『学校はどうですか?』と聞かれ、「文化が違うのは中々刺激的だな。面白いぞ」と返す。沢山の意見や考え方、風習がこの目で見ることが出来て聞くことが出来て毎日が刺激的だ。

『綺麗なお姉さん、たくさん居ますか?』

突然の話題はからかい口調だった。

「居ることは居るが、が居ないからなぁ...」

綺麗だな、とか、女優さんみたいだなという人は居なくもないが、自分には魅力的に思えない。

暫く電話の向こうで沈黙が流れる。

「お前が振った話題だぞ」

自分で振っておいて、一樹の答えに照れたらしい。

一樹がからかうように言う。

『そんな、さらっと返されたら...』

「何だ、やきもち焼きたかったのか?」

『...知らない!』

とうとう拗ねてまった。そんなも可愛いと思う自分はもうどうしようもない。

『あ、時間大丈夫ですか?』

に言われて時計を改めて見る。ちょっと口惜しい。

「あー...そろそろ準備しなきゃだな」

『じゃあ、切りますね』

「たまには、のモーニングコールで起きるのも良いな」

『毎日は無理ですけどね』

これは、前向きに考えてくれていると言うことだろうか、と思い、少しだけ期待を込めて「たまにで良いよ」と言ってみた。

すると、がまた沈黙する。

今度はそんな照れさせたつもりはない。

?どうした?」

『あ、いいえ。そうだ、忘れてた』

慌てた様子のに「何をだ?」と返すと耳元でチュッとリップ音がした。

『おはようございます』

「ば..馬鹿!」

耳元のリップ音は、おはようのキスで、そんなことをされるなんて思っていなかった一樹は盛大に動揺した。

『あ、呼ばれてる。じゃ、一樹さん。いってらっしゃーい』

「こら、!!」

一樹の抗議の声を聞くことなく、は電話を切った。

「ったく...」

朝っぱらからこんなことをされたら、日本が恋しくなってしまうではないか。

きっと今頃、は自分のしたことが恥ずかしくて真っ赤になっているに違いない。

その表情を見ることが出来ないこの環境が少しだけ残念だ。

「日本に帰ったら、覚えてろよ...」

呟いた一樹は二度寝も考えたが、せっかくが起こしてくれたのだから、といつもよりも少し早い時間だが起きることにした。


シャワーを浴びて髪を拭きながら部屋に戻ると携帯にメールの受信があったことに気づく。

何だろう、と確認するとからで本文を表示して思わず口元が緩んだ。

添付されていた写真はで、満面の笑みだ。

「...ん?」

これは自分で撮ったものではない。

本文を読むと颯斗に撮ってもらったものというのがわかった。

わかったが...

レンズ越しであっても、こんな表情のが颯斗を見つめたと思うと心から面白くない。

「今度、それとなく注意しておこう」

のこととなると、どんどん心が狭くなっている。

本当に、自分はどうしようもないと呆れつつ、もっと余裕のある大人になりたいと思うばかりの一樹であった。









桜風
13.12.20


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