Diamond ring 33





 「なあ、ちょっとウチに来る前に寄り道しても良いか?」

シートベルトを締めながら一樹が言う。

「はい」とは頷いた。

「何処に行くんですか?」

「墓参りだ」

「一樹さんの、ご両親の...」

「ダメか?」

「いいえ。ご一緒させてください」

の返事に胸を撫で下ろして一樹の両親が眠る地へと向かった。

と、いっても。

今住んでいる家からさほど遠くない。

自分の家は神社だが、両親の墓は寺にある。

こういうところが日本文化だな、と留学したときにすぐに思った。

近所の花屋で花を購入して墓地に向かう。


車を降りて、桶に水を入れて、という作業をしようと思ったらがてきぱきと準備を始めた。

「慣れたもんだな」

「一樹さんよりベテランですよ」

が笑う。

「だな」と苦笑した一樹はを両親の墓石の前に案内した。

「この休みのうちに、のところも行ってみたんだが...今日はちょっと時間がないから、ウチの手伝いが終わってからでも」

そう言ってを振り返る。

「わかりました」

は頷く。

の両親に挨拶をしたら、きっとの身内はこれで最後だな、と何となく思った。

他の親戚連中は身内に入らないだろう。

夏凛に聞けば、逆に冷ややかに「何、それ。美味しいの?」と聞いてきそうだ。

花を供えて線香を上げて手を合わせる。

並んで暫くそうしていたが、一樹は顔を上げて一生懸命手を合わせてくれているの肩を抱き寄せた。

驚いたように見上げるに微笑み、

「父さん、母さん。この人が、俺の大切な人だよ」

墓石に向かってを紹介する。

は慌てて「です」と頭を下げた。

「じゃあ、行くか」

一樹に促されては彼を見上げる。

「もう良いんですか?」

まだ話したいことがあるのではないかと思ったのだ。

「いいよ。また来れば良いんだから」

そう言って促す一樹に頷いたは「また来ます」と挨拶をしてその場を後にする。

一樹は振り返って「また来るから」と声を掛けてと共にそこを後にした。



思いのほか、時間を食ってしまい、空が随分と暗くなっていた。

「大丈夫ですか?」

「ま、忙しくなるのは夜中からだしな」

「あの、仕事内容をちゃんと教えてくださいよ」

が緊張した面持ちでそう言う。

「大丈夫だって」

軽く請け負う一樹になおも心配そうな表情を浮かべてはじっと見ている。

元々、実家には墓参りをして帰ると話しているので、少し遅くなるということは予定に入れてくれているはずだ。

そうでなかった場合、怒られるのは自分だし。

ホームタウンに戻って実家を目指す。

「あれ?」

窓の外に見たことがある人物が見えた気がしたは首を傾げる。

「どうした?」

「東月くんが居ました。...たぶん」

「あー、居たかもな」

何でだろう?彼のご両親のどちらかがここの出身なのかもしれない。

「あいつんち、たぶんこの近くだから」

「はい?!」

「他の奴らにはナイショだからな」

なぜかそう釘を刺された。

「でも、お参りにくるんじゃないですか?」

「たぶん、あいつらの町内の氏神じゃないから、ウチは」

そうか。初詣とかは氏神様にお参りするものだったと思う。

星月家は初詣はイベントで、大きな神社に行くことにしているようだった。


神社の鳥居がある入り口の逆に回って車を停める。

「こっち側が家の玄関だ」

そういった。

の荷物を持って一樹が玄関を開ける。

「ただいま」と声を掛けるとパタパタと足音が聞こえ、温和な表情を浮かべている女性が迎えてくれた。

「ただいま」と一樹が繰り返す。

「おかえり。そちらがさんだね」

そういわれては慌ててお辞儀をした。

です。お世話になります」

「お世話になるのはこちらのほうよ。とにかく、荷物を置いて、一度居間に来てもらえるかしら?」

「はい」

「んじゃ、案内するぞ」

そう言って一樹は靴を脱ぎ、も慌てて靴を脱いで一樹の後を追う。

「あらあら」

残された彼女は微笑んだ。

今時珍しい気もする。

は脱いだ靴を一樹の分も一緒に揃えて彼の後を追った。星月家の教育の賜物である。

こういう小さなことだが基本的な躾と言うのは重要だと思っている彼女は、満足そうに頷いていた。









桜風
14.1.24


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