Diamond ring 36





 翌朝、一樹はゆっくりと体を起こす。

の部屋からは夜中のうちに戻ってきており、自室で休んでいた。

服を着替えながら時間を確認するとまだ朝早い。

はまだ寝ているだろうな、と思いつつ居間に向かった。

「おはようございます」

と挨拶をされて一樹は足を止める。

?」

「はい。おはようございます」

にこりと微笑む彼女に少し足早に近付き、「体は大丈夫か?」と労わる。

真っ赤になって俯いたは「ちょっと重いです」と答えた。

「というか、早起きだな...」

「いつも通りに目が覚めてしまったので」

と言う。

「小母様は朝ごはんを作ってからさっきお休みになりました。小父様は、境内に出てくるって」

「そうか。は朝ごはんはもう済んだのか?」

「一樹さんを待ってました」

がそう返して一樹はくすぐったそうに笑った。

「んじゃ、食べようぜ」

「はい」



朝食を済ませて片づけをし、ひとまず荷物は家に置いたまま外に出た。

のリクエストどおり、一樹の育った街を見るためだ。

川土手を歩きながら桜並木の話をする。春にはここら一体の桜が見事だとか。

「ウチの桜、結構見事に咲くんだぜ」

と付け加える。

「梅の木もありましたね」

「お、よく気付いたな。はそういうのも得意なのか?」

「実家が田舎なもので」と笑う。

「そういえば、お前の家の墓参りはいつ行こうか」

さすがに、今日は避けたい。

何となく、だが...

「一樹さんはいつ向こうに戻られるんですか?」

「7日とか8日とか、かな?もそれくらいに学園に戻るんだろう?」

「だったら、今度はお見送りできませんね...」

しょんぼりという。

「そう何度も見送ってもらうのもな」

と一樹が苦笑した。

「ご迷惑ですか?」

「迷惑なもんか。迷惑じゃないが、をそのまま連れて行きたいっていう衝動に駆られるのが目に見えてるからな」

そんな事を言う。

それから、一樹の通っていた中学や商店街なども案内された。

「けどな」と一樹が呟く。

が見上げると

「ホントは、あんまりいい思い出はないんだ」

と苦笑する。

「そうなんですか?」

が問い返すと一樹はばつが悪そうに頷く。

「星月学園に通うようになって、俺は変わった。その前に、少し俺を変えてくれた子が居るんだけど、やっぱり俺を変えてくれたのは星月学園と、そこにいた恩師だな」

「恩師、ですか?」

「翼のじいさん、天羽英空先生だ」

「はい?!」とは頓狂な声を漏らす。

「あいつのじいさんが、俺に星月学園に入学するように勧めてくれた。そこで、チカラの使い方とか、学べって言われて。俺は自分のチカラが嫌いだったからな」

じっと自分を見上げるに苦笑した。

「俺は、俺のチカラが他人を不幸にすると考えていたからな」

「そんな」と声を漏らすに「今は思ってないよ」と言う。

「未来が見えるとか、見えないとかそんなこと関係なくて。出来ることを、したいことをまっすぐにやっていくって決めてるから」

一樹の言葉には嬉しそうに微笑む。

「そうですよね。生徒会長として、星月学園にいたときも、王様でしたもんね」

とからかうように言う。

「じゃあ、は王妃様だな」

と一樹が返しては言葉に詰まって足が止まる。

してやったり、という笑みを浮かべた一樹は「ほら、行くぞ」と言ってを促して歩き出す。

あまりいい思い出がなかった地元だが、こうやってと歩いていると新しい、いい思い出が上書きされていく。

は凄いな」

「何ですか?」

ポツリと呟いた一樹の言葉が聞き取れずに聞き返すと

が好きだよ」

と言われてまたしても彼女は驚いて足を止める。

「一樹さん?!」

「ははっ。あ、ほら。あの店で買い食いしてたんだ。行ってみようぜ」

「お正月ですよ」

「三が日過ぎたから大丈夫だって」

少し足早に歩く一樹の手に引かれながらは小走りになってついて行った。









桜風
14.2.14


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