Diamond ring 42





 学校近くのカフェに足を運んだ。

少し珍しいものを見るようには店内をキョロキョロと見渡す。

<可愛らしい子だな、カズキ。妹かい?>

マスターに声をかけられて一樹は苦笑をした。

<恋人だよ>

<それはすまなかった>

肩を竦めたマスターは一樹用にコーヒーを入れ、彼に視線で問う。

、何が飲みたい?」

「一樹さんと同じもので」

がそう答え

<俺と同じでコーヒーをお願いします>

とマスターに声をかけた。

店内の端の席に腰を下ろす。

暫くしてウェイトレスがコーヒーとケーキを持ってきた。

驚いて一樹がマスターを見ると彼がウィンクをした。

<ありがとうございます>

そう言ってにケーキを勧めた。


「すまないな、。今の時間の授業は取ってないんだけどひとつ後のを取ってるからまだ一緒に観光できないんだ」

「あ、いえ。ごめんなさい。わたしも一樹さんの都合を確認せずにやってきて...」

しょんぼりしてが言う。

「しょげるなよ。俺を驚かせたかったんだろう?お相子じゃないか」

そういわれてが首を傾げる。

「去年のクリスマス、俺はを驚かせたくて連絡も入れずに星月学園に忍び込んだだろう?」

ちなみに、あそこでに会えなかったら大人しく帰ることはせずに何とか寮にもぐりこんでいた可能性がある。

間違いなく犯罪者だ。

、俺の授業が終わるまで此処で待ってられるか?」

観光に行きたいと言ったらどうしようか...

「はい」

この返事で一樹の心配は取り越し苦労に終わる。

「どこか行きたいところがあるか?明日明後日は学校が休みだから観光案内できるぞ。あ、いつまで居るんだ?」

「明々後日の朝の便で帰ります」

「そうか...」

やはり短いな、と一樹は残念に思った。

ホテルだけの問題なら明々後日から自分の家に泊まれば良いといえるが、彼女の都合もあるだろうし...



時間になって一樹はそのカフェを出て行かなくてはならなくなった。

マスターによく言い含めてのことをお願いし、後ろ髪を引かれる思いで学校に戻る。

<カズキとは付き合いが長いのかい?>

マスターが声をかけてきた。

は慌てて

<ごめんなさい、ゆっくりお話していただけますか?上手く聞き取れないんです>

と返す。

彼は頷いて先ほどと同じ言葉を繰り返した。今度は彼女が聞き取りやすいようにゆっくりと。

暫く話をしていると彼女は意を決したように、

<変なことを聞いても良いですか?>

と言う。

マスターは面白がって

<何だい?>

と返した。

<一樹さんって、人気..ありますよね?>

マスターは笑う。

<勿論。彼はうちで働いてくれているんだけどね、女の子たちが彼目当てで来てくれるんだ>

ですよねー...

そう思っていると

<けどね>

とマスターが言う。

<その女の子達はすぐに来なくなるんだよ。カズキに声をかけても日本に可愛い恋人が居るからって断って全く靡く気配がないからね。女の子達も諦めるのが早いんだ>

カラカラと笑う。

<しかし、凄く納得したよ。さっきカズキが君を連れてこの店にやってきて。君を凄く大切にしているっていうのが良く伝わってきた>

何より、この店を後にするときの一樹の表情。あれは中々傑作だった。

マスターはそれを思い出してクツクツと笑う。

は彼が何を思って笑っているのかがわからず首を傾げた。

<さあ、そろそろカズキがやってくるよ>

マスターがそう言い終ると店に飛び込んできた人物があり、

!」

それは一樹だった。

「寂しくなかったか?ごめんな」

「大丈夫です、マスターさんとお話してましたから」

が言うと一樹が慌ててマスターに駆け寄る。

<何か、変なこと言ってませんよね?>

<さあ?君の可愛い恋人に聞いてみたらどうだい?>

そう返して彼はにウィンクし、それに気付いた彼女は笑う。

「ちょ!?マスターと何の話をしたんだ?」

「んー...秘密です」

飛び切りの笑顔でそういわれ、一樹は敗北を喫した。

肩を落として店を後にするカズキの隣を歩くは振り返る。

軽く手を振るマスターに

<ありがとうございました>

とお礼を口にして店を出た。


時間があれば博物館を案内してやりたかったが、もう閉館時間だ。

他にどこか行きたいところはないかと言うと

「一樹さんの家に行きたいです」

と彼女が言う。


あんまり片付いていないんだけどなぁ...

そう思いつつも、ゆっくりするなら確かに家だろうと思って一樹はを借りているアパートの部屋に招待することにした。

地下鉄に乗って、駅から地上に出ると雲行きが怪しい。

「ちょっと急ごう。雨が降るかもしれない」

一樹が言うとは頷き、少し速い歩調で一樹の部屋に向かった。

途中、やはり雨に降られ、しかもかなり強めの雨だったため、一樹の部屋に着いた時には2人とも濡れ鼠だった。


部屋に入った一樹はすぐにクローゼットからタオルとスウェットを取り出してに渡す。

、まずはシャワー浴びて来い。風邪を引くといけないからな。服は乾かさなきゃならないだろうから、俺ので悪いけどそっちに着替えろよ」

そう言って一樹は風呂の支度をする。

元々この国は湯船に浸かるという習慣がないので、湯船自体小さいため、一樹にとっては湯船に浸かることがそこまで疲れを癒すことになっていない。

だから、普段はそんなに湯船に湯を張らないが、随分と体が冷えているはずだから湯を張ってやる。は体が小さいからこういうときは得だ。

「今湯を張ってるからシャワーを浴び終わったらちゃんと浸かれよ」

自分の頭を乱暴にタオルで拭きながら一樹が言う。

「一樹さんは?」

きゅっと一樹の服を掴んでが言う。

「俺は頑丈だから大丈夫だよ。ほら、いいから入ってこい」

安心させるように微笑んだ一樹だったが、間の悪いことにその直後に盛大なくしゃみをしてしまった。

を見ると思ったとおり凄く心配そうに見上げている。

「大丈夫だから」

そう言ってくしゃりとの頭を撫でる。

しかし、の表情は変わらず、一樹は困った。

「一緒に入るわけにはいかないだろう?狭いし」

一樹が諭すように言うと「大丈夫です」とが返す。

は一樹の体が心配な一心なのだろうが、一樹はちょっと困った。

「いや、。たぶん大丈夫じゃないぞ」

「行きましょう。風邪を引いちゃいます」

これって誘われているのかなぁ...

頑として譲ってくれそうにないに諦めの溜息を吐いた。


「あれ?」

脱衣所でやっと服を脱ぐ段になってはふと気がついたらしい。

「え、一緒に?」

「お前が言ったんだからな」

既にやけっぱちになっている一樹がそういい、早々に服を脱ぎ散らかしてバスルームに入っていった。

「あれ?」

は首を傾げ、そして逃げようとしたが、戻ってきた一樹に服を剥ぎ取られてそのまま風呂に連行されてしまった。









桜風
14.3.29


ブラウザバックでお戻りください