| 翌日、連絡を受けてホテルの外に出ると一樹が立っていた。 「おはようございます」 「おはよう。さ、何処に行きたい?俺んちでも良いぞ?」 イタズラっぽく笑って一樹が言い、は赤くなる。 「博物館に行きたいです」 「なんだ、ウチじゃなくて良いのか」 「良いんです!」 拗ねたに苦笑して一樹は、「では、お嬢様。ご案内いたしましょう」と芝居がかった一礼をした。 「そういや、ってこっちの言葉話せるんだな。読み書きは?」 感心したように一樹が言う。彼女は昨日はマスターと話をしたと言っていた。 「読み書きまで手を出せませんでした。会話はゆっくりなら。颯斗くんに付き合ってもらって勉強しました」 「颯斗か。あいつ、留学だろう?」 一樹が言うとが頷く。 「何処に?」 「そこまでは聞いてませんけど。お姉ちゃんが言うには、たぶんウィーンじゃないかって」 「夏凛さんが?」 あの人、何だかエスパーみたいだよなと思った。 昨年の春に、にドレス風のワンピースを贈ると言い出したのも彼女らしいし、それがあったからディナークルーズが出来た。 「...夏凛さんって星詠みの力はないんだよな?」 「聞いたことはありませんけど、たぶんないと思いますよ」 だよなぁ...あっても、の未来は見えないし。 博物館前では感嘆の息を吐く。 「おっきいですねぇ」 「ああ、こっちは日本とはやっぱり規模が違うよな」 そう言って一樹が入口でチケットを購入しての手を引いて館内に入る。 建物自体が保存する芸術的価値のあるものらしい。 そういえば、は芸術方面は苦手だと言っていたが、博物館は平気なのだろうかと思って聞いてみると 「苦手なのは作るほうで、見るのも聞くのも好きですよ」 と返された。 なるほど、と一樹は納得する。 博物館をじっくり見て回るのに、半日以上掛かった。 「ごめんなさい、一樹さん」と長時間滞在させたことに謝罪をするが、一樹は特に気にしていない。 隣にが居ると言うだけで充分だ。 過ごし方はその時々だし、が満足したならそれでいい。 それを伝えると「ありがとうございます」と彼女は嬉しそうに微笑んだ。 大通りと歩くと、さすが休日は露店が多い。 芸術家の卵達が自分の作品を販売しているようだ。 冷やかしの客も少なくないので、たちも気になった店を覗く。 ふと一樹が足を止めた。 「一樹さん?」 一樹は露店の前にしゃがみこみ、店主と話をする。 その店はシルバーアクセサリーを扱っていた。 「。これなんてどうだ?」 そう言って一樹が手に取ったのは指輪だった。 目にした瞬間、物凄く好みで頷きかけた。 「でも、一樹さん。これ」 そう言っては自分の腕に嵌めている彼から貰ったブレスレットを見せた。 これは虫除けと言って一樹に貰ったもので、正直、星月学園に在籍していたときはこれがなくても虫は寄ってこないようになっていたのだが、ずっとつけていた。 「んー、でもなぁ。指輪が一番の虫除けなんだよ」 ばつが悪そうに一樹が言う。 ブレスレットにしたのだって、校則に引っかかる可能性が否定できなかったからで、そうではなかったら指輪にしていた。 はどうしたものかな、と悩む。 指輪を嵌めることに抵抗があると言うわけではない。 ただ、貰いっぱなしなのだ。そこがどうしても気になって仕方ない。 きっと、自分が余裕のある大人なら上手く断ったり、素直に受け取ることが出来たのかもしれない。 「俺がもっと大人だったら、こんなやきもきすることなかったかもしれないんだけどなぁ...」 一樹が呟く。 思わずが噴出した。 「笑うなよ!」 一樹の抗議には 「ごめんなさい。でも、わたしも同じことを考えてたから」 と謝罪する。 驚いた一樹も苦笑を漏らした。 「じゃあ、誕生日プレゼントってことで。ください」 これが最大限の譲歩かもしれない。 が言うと一樹は少し難しい表情をしたが、 「そうだな。今年は誕生日のお祝い、面と向かって出来ないからな」 と頷いた。 約ひと月先のの誕生日をお祝いするプレゼントとしてその指輪を購入する。 早速一樹がの右手の薬指にそれを嵌めた。 「左は、もう少し先の未来まで取っといてくれ」 イタズラっぽく笑っていう一樹には真っ赤になって頷いた。 「一樹さんの誕生日プレゼントは何にしましょうか」 自分が貰ったのだから、あげなくては、とが呟く。 「別に良いぞー」 「ダメです!去年だって...」 そこまで言っては口を噤む。 昨年の誕生日プレゼントに一樹の所望したのは、からのキスだった。 思い出して赤くなっているに苦笑を漏らして 「んじゃ、今年もそれがいい」 と一樹が言う。 「学校、大丈夫なんですか?」 「大丈夫だって」 の荷物はもう預けていて、またしても身軽となっている。 見送りに来てくれているのは嬉しいが、平日である本日、彼には授業がある。はそれが心配で仕方ない。 「次に会えるのは、俺が帰るときか...」 「留学の延長とかはないんですか?」 「あっても、一旦帰るさ。夏休みだし」 そうか、夏休みか... つまり、夏まで会えないのだ。 「」と名を呼び、一樹が彼女を抱きしめる。 ぎゅっと強く抱きしめられても彼の体に腕を回す。 暫くそうしていたが、飛行機のアナウンスが流れてきた。の乗る飛行機だ。 ゆっくり離れた2人は名残惜しそうに体を離した。 「それじゃあ、また」 「ああ、気をつけてな」 の乗った飛行機を見送った一樹は時計を見る。 ギリギリ何とか授業に間に合う。 さっきまですぐ傍にあったその存在が今はない。 「あー、くそっ!」 毒づいた一樹はその感覚を忘れようと、駅に向かって駆け出した。 ちなみに、今年も一樹はから誕生日プレゼントをもらえた。 勿論、一樹が離さず彼女の思っていた以上の濃厚なキスになったのも昨年と同様である。 |
桜風
14.4.11
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