Diamond ring 45





 ぽかぽかと気持ちのいい陽気の中、くわ、と欠伸をする。

時計を見て、そろそろだな、と思い一樹は注意して周囲を歩く学生候補を見ていた。

「いたいた」と呟き、「颯斗!」と手を上げる。

彼は目を丸くしてそして少し足早に近付いてきた。

「一樹会長!」

そう呼ばれて一樹は苦笑した。

「まだ会長か」

「はい。僕にとって、会長はずっと会長です」

颯斗が微笑んでそう言う。

「ところで。どうしたんですか、こんなところで」

そういえば、何故此処に居たのだろう。

颯斗が問うと

「お前を待ってたんだよ。メシでもどうだ?」

と一樹が笑う。

一瞬驚いた表情を浮かべた颯斗だが、笑顔で頷いた。


「どうして、僕が此処の学校の試験を受けると..って愚問でしたね」

近くの店に入り、少し落ち着いてから颯斗が問う。

「ああ、に聞いた」

一樹は苦笑して頷く。

先日、電話をしていたらが颯斗の情報を口にしたのだ。

「一緒にご飯を食べたらどうですか」

と言う。

それは良いかもしれない、と思いつつも一樹は少し面白くなかった。

「お前なぁ...俺の誕生日を祝う電話で他の男の話をするな」

そう言うと電話の向こうのは言葉を失い、クスクスと笑う。

「ったく...」

「ごめんなさい」と彼女は謝罪するが、その言葉は少し震えており、笑いを堪えているのが電話越しでも良くわかる。

それでも、こちらで颯斗に会える機会なんてそうないので、その情報は続報を頼んでおいた。

優秀なは、颯斗の受験校や試験の日など事細かに、颯斗から聞き出したらしい。

やっぱりそれはそれで面白くないとも思った。


そのときのことを思い出して溜息をつくと「一樹会長?」と颯斗が不思議そうに彼の名を呼ぶ。

「ああ、いや。すまん」

慌てて笑顔で謝罪した。

「そういえば、春休みにさんとお会いしたんですよね?」

「あいつ、そんな話までしたのか?」

「というか、行く前に聞いたんです。こっちの言葉の練習に付き合ってほしいって言われて。一樹会長と話をするだけなら日本語で足りるのに、と思って理由を聞くと、春休みの内に一樹会長に会いに行きたいからって。本当に、惚気られてばかりで僕は大変でした」

肩を竦めていう颯斗はイタズラっぽく笑う。

ののやつ、連絡なしで来たからビックリしたよ」

一樹が苦笑する。

「驚かせるんだーって張り切ってましたからね。僕は、連絡したほうが良いと思いますよって言ったんですけどね」

何だかそのときの風景が浮かんで一樹は笑った。

きっと颯斗は困ったようにそういったんだろう。だが、は両拳をぐっと握って「大丈夫!」と言ったに違いない。

「そういや、今日の試験はどうだったんだ?」

一樹が問うと、颯斗が俯く。

「お、おい。ダメだったのか...?」

慌てた一樹に颯斗はくすっと笑って顔を上げた。

「冗談です。というか、僕は僕のできることを精一杯しました。あとは、その結果を待つだけです」

と胸を張って言う。

「ったく、驚いたじゃないか...」

苦笑しつつも、颯斗の頼もしさに安堵する。

「一樹会長」

颯斗の声音が改まる。

「どうした?」

「ありがとうございました」

深々と頭を下げられて一樹は驚いた。

「颯斗?俺は特に何も...」

「あなたにあえて僕の世界が変わりました。僕は、星月学園に逃げました。けど、もう一度立ち向かおうと思えた。
あなたが無理矢理生徒会に引き入れてくれたお陰で、僕の世界は変わりました」

「違うよ。颯斗は元々その強さを持ってたんだ。ただ、ちょっと疲れてたんだよ。星月学園に来たのは、逃げたんじゃなくて、休憩してたんだろう。
俺も、お前たちに会って、世界が変わったよ。人との関わりってのは、きっとそういうもんなんだよ」

一樹が笑い、颯斗も笑う。


食事を終え、駅までの道のりを並んで歩いた。

「颯斗がこっちに留学するときには俺が日本に帰るんだよなー...」

「僕は、少し早めにこっちに来る予定ですよ。来月くらいからとは考えています」

颯斗の言葉に「そうか」と一樹の声が弾む。

「じゃあ、また一緒にメシでも行こうぜ」

「はい、喜んで」

駅で別れて一樹は帰宅の途につく。

颯斗に会って、星月学園での生活を思い出してしまった。

懐かしいあの日々を思い出して、そして無性にの声が聞きたくなる。

電話をしようとポケットからそれを取り出すと、着信と告げた。

「もしもし」

『一樹さん』

どうしてこのタイミングで...

「丁度の声を聞きたかったんだ」

一樹が言うと

『何かあったんですか?』

と電話の向こうの声は心配そうだ。

「いや、さっきまで颯斗と会ってて。懐かしくなったんだ、星月学園が」

『あ、わたしはついでですか』

がからかうように言う。

「ばか。いつでも一番会いたいのは、だよ」

『...どっちがばかですか。そんな事言われたら会いたくなっちゃうじゃないですか』

拗ねたように言うに苦笑を漏らす。

「今、そっちは朝だよな」

腕時計を確認して言う。

『はい、そうです』

「じゃあ、学校行く準備があるな」

『...そうです』

少し名残惜しげな声を出してが同意した。

「じゃあ、切るな。遅刻すんなよ」

『はい。えっと、そっちは夜ですよね。おやすみなさい』

「おやすみ」

はこちらが切らなければ通話を切らないので、いつも一樹から通話を切る。

携帯をポケットに仕舞いながら溜息をつく。

夏までが意外と長い。









桜風
14.4.18


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