| ぽかぽかと気持ちのいい陽気の中、くわ、と欠伸をする。 時計を見て、そろそろだな、と思い一樹は注意して周囲を歩く学生候補を見ていた。 「いたいた」と呟き、「颯斗!」と手を上げる。 彼は目を丸くしてそして少し足早に近付いてきた。 「一樹会長!」 そう呼ばれて一樹は苦笑した。 「まだ会長か」 「はい。僕にとって、会長はずっと会長です」 颯斗が微笑んでそう言う。 「ところで。どうしたんですか、こんなところで」 そういえば、何故此処に居たのだろう。 颯斗が問うと 「お前を待ってたんだよ。メシでもどうだ?」 と一樹が笑う。 一瞬驚いた表情を浮かべた颯斗だが、笑顔で頷いた。 「どうして、僕が此処の学校の試験を受けると..って愚問でしたね」 近くの店に入り、少し落ち着いてから颯斗が問う。 「ああ、に聞いた」 一樹は苦笑して頷く。 先日、電話をしていたらが颯斗の情報を口にしたのだ。 「一緒にご飯を食べたらどうですか」 と言う。 それは良いかもしれない、と思いつつも一樹は少し面白くなかった。 「お前なぁ...俺の誕生日を祝う電話で他の男の話をするな」 そう言うと電話の向こうのは言葉を失い、クスクスと笑う。 「ったく...」 「ごめんなさい」と彼女は謝罪するが、その言葉は少し震えており、笑いを堪えているのが電話越しでも良くわかる。 それでも、こちらで颯斗に会える機会なんてそうないので、その情報は続報を頼んでおいた。 優秀なは、颯斗の受験校や試験の日など事細かに、颯斗から聞き出したらしい。 やっぱりそれはそれで面白くないとも思った。 そのときのことを思い出して溜息をつくと「一樹会長?」と颯斗が不思議そうに彼の名を呼ぶ。 「ああ、いや。すまん」 慌てて笑顔で謝罪した。 「そういえば、春休みにさんとお会いしたんですよね?」 「あいつ、そんな話までしたのか?」 「というか、行く前に聞いたんです。こっちの言葉の練習に付き合ってほしいって言われて。一樹会長と話をするだけなら日本語で足りるのに、と思って理由を聞くと、春休みの内に一樹会長に会いに行きたいからって。本当に、惚気られてばかりで僕は大変でした」 肩を竦めていう颯斗はイタズラっぽく笑う。 「ののやつ、連絡なしで来たからビックリしたよ」 一樹が苦笑する。 「驚かせるんだーって張り切ってましたからね。僕は、連絡したほうが良いと思いますよって言ったんですけどね」 何だかそのときの風景が浮かんで一樹は笑った。 きっと颯斗は困ったようにそういったんだろう。だが、は両拳をぐっと握って「大丈夫!」と言ったに違いない。 「そういや、今日の試験はどうだったんだ?」 一樹が問うと、颯斗が俯く。 「お、おい。ダメだったのか...?」 慌てた一樹に颯斗はくすっと笑って顔を上げた。 「冗談です。というか、僕は僕のできることを精一杯しました。あとは、その結果を待つだけです」 と胸を張って言う。 「ったく、驚いたじゃないか...」 苦笑しつつも、颯斗の頼もしさに安堵する。 「一樹会長」 颯斗の声音が改まる。 「どうした?」 「ありがとうございました」 深々と頭を下げられて一樹は驚いた。 「颯斗?俺は特に何も...」 「あなたにあえて僕の世界が変わりました。僕は、星月学園に逃げました。けど、もう一度立ち向かおうと思えた。 あなたが無理矢理生徒会に引き入れてくれたお陰で、僕の世界は変わりました」 「違うよ。颯斗は元々その強さを持ってたんだ。ただ、ちょっと疲れてたんだよ。星月学園に来たのは、逃げたんじゃなくて、休憩してたんだろう。 俺も、お前たちに会って、世界が変わったよ。人との関わりってのは、きっとそういうもんなんだよ」 一樹が笑い、颯斗も笑う。 食事を終え、駅までの道のりを並んで歩いた。 「颯斗がこっちに留学するときには俺が日本に帰るんだよなー...」 「僕は、少し早めにこっちに来る予定ですよ。来月くらいからとは考えています」 颯斗の言葉に「そうか」と一樹の声が弾む。 「じゃあ、また一緒にメシでも行こうぜ」 「はい、喜んで」 駅で別れて一樹は帰宅の途につく。 颯斗に会って、星月学園での生活を思い出してしまった。 懐かしいあの日々を思い出して、そして無性にの声が聞きたくなる。 電話をしようとポケットからそれを取り出すと、着信と告げた。 「もしもし」 『一樹さん』 どうしてこのタイミングで... 「丁度の声を聞きたかったんだ」 一樹が言うと 『何かあったんですか?』 と電話の向こうの声は心配そうだ。 「いや、さっきまで颯斗と会ってて。懐かしくなったんだ、星月学園が」 『あ、わたしはついでですか』 がからかうように言う。 「ばか。いつでも一番会いたいのは、だよ」 『...どっちがばかですか。そんな事言われたら会いたくなっちゃうじゃないですか』 拗ねたように言うに苦笑を漏らす。 「今、そっちは朝だよな」 腕時計を確認して言う。 『はい、そうです』 「じゃあ、学校行く準備があるな」 『...そうです』 少し名残惜しげな声を出してが同意した。 「じゃあ、切るな。遅刻すんなよ」 『はい。えっと、そっちは夜ですよね。おやすみなさい』 「おやすみ」 はこちらが切らなければ通話を切らないので、いつも一樹から通話を切る。 携帯をポケットに仕舞いながら溜息をつく。 夏までが意外と長い。 |
桜風
14.4.18
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