Diamond ring 47





 大学の後期日程が始まり、も一樹もそれぞれの生活が忙しくなった。

夏休みは時間を見つけて共に過ごしていたので、こうなると途端に寂しくなる。

そんな中、一樹がの通う大学の学祭に行きたいといってきた。

特にサークルなどに入っていないはやることがなく、学祭は軽く見て回るだけにしようと思っていたのだが、一樹が来ると言うなら楽しもうと心に決めた。



「一樹会長?」

大学の正門前に立っていると声をかけられて振り返る。

「月子か。久しぶりだな。東月も」

「お久しぶりです」と月子と東月は口々に挨拶をする。

「どうしたんですか?って、そうか。ちゃんですね」

「ああ、ここで待ち合わせをしてるんだがな」

そう言って時計を見た。

今、丁度時間だ。

は時間に遅れたことはない。

用事があって遅れるなら電話をしてくるはずだし、と少し心配になる。

「あ、さん。あそこの屋台で掴まってますよ」

東月が言う。

この正門からまっすぐ構内に伸びている道の両脇には屋台がずらりと並んでいる。

サークルや、研究室が出しているものなのだろう。

焼きそば屋の前では声をかけられていた。

少し困った様子だが、その割には、お互いの間に多少の気安さも見える。

「あ、あの人ちゃんと同じ学部の人だ。時々食堂でちゃんに声掛けてるから聞いたら、同じ学部の人だって言ってた」

月子が呟く。

ほうほう、にちょっかいをかけている不届き者が居ると言うことか...

「ふっふっふ...」

一樹の口から低い笑い声が漏れた。

「か、一樹会長?」

月子が不安そうに彼の名を呼ぶ。ちょっと怖い...

「じゃあな、月子。東月。またな」

そう言って一樹はの元へと足を向ける。

そんな一樹の背中を月子は心配そうに、東月は愉快そうに見送った。


「ねえ、さん。暇なら、さ」

そう言って同じ学部の顔見知りが手を伸ばしてきた。

は咄嗟に後ずさる。

どん、と誰かにぶつかって慌てて「ごめんなさい」と謝りながら振り返るとそれが一樹だとわかった。

でも、何か不機嫌だ...

「さあ、。案内してくれるか?」

彼女の背に手を置いて促すように軽く押す。

「お、おい」

邪魔をされた男は一樹に文句を言おうと口を開いたが、彼に睨まれて口を噤む。

暫く無言で歩いていたが、背を押す一樹の手が離れたのでは彼を見上げた。

「あの、遅くなってごめんなさい」

は、時間通りに待ち合わせ場所に行かなかったことについて一樹が腹を立てているのだと思っているようで、それに気づいた彼は溜息を吐いた。

「あいつ、同じ学部なんだってな」

あいつ、と言われて先ほど話をしていたあの人だと気付き、頷く。

「何で知ってるんですか?」

「さっき、正門でを待ってたら月子に会って、あいつから聞いた」

「つっこちゃん?」

今日は、弓道部の関係で何かするとか言っていた様な気がする。

「で、正門まで辿り着かずに、どうやら絡まれているらしいが見えたから迎えに行ったんだ」

「あ、ごめんなさい。ありがとうございました」

あれぐらいじゃ、虫除けにならないのか?

の指には一樹がプレゼントした指輪がある。それなのに、ちょっかいを出されているとは...

左か?左の薬指の方が良かったのか?!

「一樹さん?」

不思議そうに自分を見上げるに気付いた一樹は、わざとらしく咳払いをした。

「何でもない。さ、何処に連れてってくれるんだ?」

一樹の言葉にはニッと笑った。

「とっても驚くところです」

自信満々の彼女を、少し訝しがりながらその隣を歩く。

ふと思いたって、彼女の手を取ると不思議そうに見上げられた。

「嫌か?」

聞いてみると微笑んだ彼女は首を横に振る。

とりあえず、構内でイチャイチャして周囲に見せ付けておこう。

心の狭い一樹であった。



が連れてきたのは、茶道部の部室のようだ。

「お茶かぁ、懐かしいな」

「一樹さんは、こっちに戻ってきて金久保先輩とお会いしてないんですか?」

「あー、電話は何回かしたけど、まだ会ってない。都合が着かなくてな」

「そうなんですね」

どうしたのだろうか、が先ほどよりも少し楽しそうだ。

茶会は、時間が決まっており、人数制限もあるようだ。人数が上限に達したら次回に回されるらしい。

今回は、何とか待たずに茶会に参加できるようである。

襖を開けて通された部屋で待っていると茶道部員が入ってきた。

そして、その一番最後に入ってきた人物に「ああ?!」と一樹が声を上げる。

「一樹さん!」とに窘められて「悪い...」と小声で謝罪する。

一番最後に入ってきたのは、金久保だった。

彼の進学先はこの学校ではない。だから、此処に居るのは些か不自然だ。

星月学園在学中に金久保に教えてもらったとおりの作法でお茶を頂き、その回は終了する。

部室の外に立っていると金久保が出てきた。

「久しぶり、一樹。さんは、この間会ったもんね」

「ちょっと待て、何で誉がに会うんだよ」

一樹の言葉に金久保が盛大に溜息を吐く。

「一樹、余裕なさすぎ」

呆れたように言われて「うるさい!」と一樹が返す。

「僕は、時々この学校の茶道部の練習を見ているんだ。だから、構内で偶々さんに会って、学祭にも顔を出すって話をしておいたんだよ」

「そうなのか?」

を見下ろすと

「はい。だから、一樹さんが学祭に来たいって言ったときに、此処は外せないって思ったんです」

「何だよー、ったく...」

ビックリしたじゃないか、と一樹が零すとは満足そうに笑った。

「ねえ、2人は夕方以降、何か用事ある?」

「いや、特には」と一樹がいい「わたしも特にないです」とが言う。

「じゃあ、良かったら夕飯いっしょに食べない?2人を前にすると当てられちゃうから、宮地君や夜久さん。あと、東月君もこの学校だよね?」

金久保の提案に一樹が「どうする?」との意思を問う。

「素敵です!」

弾んだ声でがいい、

「だ、そうだ」

と一樹が苦笑する。

「じゃあ、連絡頼んでも良いかな?お店は僕が探しておくから」

「わかった。人数決まったら連絡する」

「よろしく。じゃあ、さん。また後で。一樹も」

「俺はついでかよ」

一樹は苦笑しながら金久保に零し「まあね」という返事を貰ってがっくりと肩を落とした。


夕飯は、予定の人数が揃った。

既に二十歳を超えている一樹と金久保はアルコールを注文し、その姿をたちは尊敬の眼差しで見る。

「お前らも、来年には飲める様になるだろう」

苦笑して一樹が言う。

「大人だね」とが月子に言うと「うん、大人だね」と彼女も頷く。

そんな2人の言葉に一樹と金久保は顔を見合わせて苦笑を漏らした。









桜風
14.5.2


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