Diamond ring 50





 翌朝、一樹が目を覚ますとの姿がなかった。

眠い目を擦って客間を出ると、ぐうと腹が鳴る。食欲を刺激する香りが家の中を漂っていたのだ。

台所を覗くとが包丁のいい音を鳴らして何かを切っていた。

「おはよう」

声を掛けると驚いたようには振り返って、時計を見た。

「おはようございます。早いですね」

心底驚いた表情のに苦笑した。

「目を覚ましたら、が居ないから焦ったよ」

「ごめんなさい、起こしたら悪いと思って...」

「まあ、俺でもそうするよ」

苦笑して一樹はそう返した。

台所にある椅子に座って朝食の支度をしているを眺める。

何だろう、幸せだなぁ...

「一樹さん、寒くないですか?」

「いや、そうでもない」

そういえば、星月学園に在学中もコートを着なかったな、と思った。寒いのに強いのかもしれない。

もそう納得してそれ以上一樹に何も言わなかった。


朝食を済ませて寺に向かった。

花はこちらに来る前に正月用の花を購入した。

「次に来るまで、それでいいのか?」

一樹が問うと

「お正月明けにお姉ちゃん達が行くって言ってましたから」

が応える。

それなら、と一樹も納得した。

そして、酒も購入した。

は未成年のため、購入したのは一樹だ。

「ご両親はお酒が好きなのか?」

「母がザルだったらしいです。父は下戸」

「極端だな」と一樹が笑う。

ということは、つまり夏凛と晴秋は母親似と言うことだろうか。

では、は?

一樹がを見下ろしていると彼女は不思議そうに見上げてきた。

「ああ、いや。夏凛さんたちはお母さんに似ているなら、はどっちかなって」

「お父さんだと思いますよ。お姉ちゃん達がいうには、わたしはどっちかと言えばお父さんに似ているそうです」

「へえ...じゃあ、下戸かもしれないってことか」

「ですね」とは笑った。

墓前に花と酒を供えて線香に火を点ける。

「おや、ちゃん」

声を掛けられて振り返ると寺の者だとわかる人が居た。

「おはようございます」

「おはよう。冬休みかい?」

「はい」

頷いたが一樹に紹介した。彼はこの寺の住職だと言う。

挨拶をする一樹に住職も挨拶を返した。

「夏凛ちゃんたちは?」

「今年もお正月はムリだそうです」

「じゃあ、正月明けに来るんだね。2人揃って?」

「わかりません」

「そうか。しかし、ちゃんたちきょうだいは親孝行だね」

「そう..でしょうか」

が少し寂しげに笑った。

「きょうだいで大きな喧嘩をするでもない。親は子供達が仲たがいするのを見るのは悲しいものだよ」

少し住職と話をして帰宅の途に着く。


お茶を飲んで休憩して、今回の目的である大掃除を始めた。

元々一樹は掃除が苦手であるが、掃除を手伝うと言う名目でこの家を訪ねたのだから、と彼なりに頑張った。

その点はも納得しているらしく、掃除はのんびりだった。どちらかといえば、力仕事が必要なことばかりお願いしてきた。

細かいところは全部がてきぱきとこなした。

その最中に荷物が届いた。

そういえば、昨日夏凛が家に居るように言っていたな、と思い出した。おそらくクリスマスプレゼントだろう。

届いた荷物を見るため、少し休憩をすることになった。

一樹はそっと溜息を吐く。やはり、苦手なことを頑張ると疲れるものだ...

夏凛からのプレゼントはオルゴールだった。

「わ、可愛い」

の目が輝く。

何であの人はこんなに簡単にを喜ばせられるのだろうか...

一樹は不思議でたまらなかった。そして、同時に悔しいとも思ってしまう。

自分が用意した彼女へのクリスマスプレゼントはこんな風に喜んでもらえるだろうか...

少しだけ不安を覚えた。









桜風
14.5.23


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