| 夜中に目を覚ますと、腕の中にいるはずのの姿がなく、彼女が寝ていたはずの場所を触ってみると、冷えている。 つまり、布団を抜け出して少し時間が経っているということだ。 「トイレじゃないのか」 そういいながら体を少し起こして部屋の中を見渡すと障子越しに雨戸が少し開いているのがわかる。 一樹は布団を出て毛布を掴み、そっと障子を開けた。 思ったとおり、は雨戸の間に座って星空を見上げていた。 「風邪引くぞ」 一樹が声を掛けると、は驚いたように振り仰ぐ。 「ごめんなさい、寒かったですか?」 雨戸を開けていたので外の冷気が入ってきて目が覚めたのかと思い、彼女は一樹に謝る。 一樹は自分もの隣に座れるように雨戸をもう少し開けた。 持ってきた毛布をと自分に掛けて空を見上げる。 「いや、寒くはなかった。どうした?」 やっぱりちょっと寒い。 一樹は隣に座るをひょいと持ち上げて自分の脚の間に座らせた。ぎゅっとを抱きしめて驚く。 「おいおい、冷えすぎだぞ」 知らず、彼女を抱きしめる腕にも力が籠もる。 「...怖い夢でも見たのか?」 覗うように一樹が問う。 2年前の冬休みに引き受けた宿直ときにから話を聞いた。その夢を見ると眠れなくなる、と。 しかし、腕の中のは首を横に振った。 「あのときから、1度も見てないんです」 「1度も?」 一樹が問い返す。 は頷き、「親不孝者ですね」と寂しげな声音で零す。 後ろからを抱きしめている一樹はその腕を緩め、彼女を膝の上に乗せて自分と向かい合わせに座らせた。 恥ずかしいのか、は俯いている。 「本当にそう思っているのか?」 少し怒った声で一樹が言う。は一樹が何故怒っているのかわからず、じっと彼を見上げていた。 「本当に、その悲しい夢を見ないことが親不孝だって思っているのか?」 は視線を彷徨わせて俯いた。 「」と呼ばれてそっと見上げる。 「両親の夢を見たら眠れないって言ったよな?」 一樹の言葉には頷いた。 「けど、最近は見てない」 またしても頷く。 「じゃあ、安心したのかもな」 一樹がそう呟き、は不思議そうに一樹を見上げた。 「もう、のことを心配しなくてもいいからって。だから、夢に出てこなくなったんじゃないか?のご両親は、やっぱりお前には笑っていてもらいたいはずだよ。幸せになってほしいに決まっている。 それは、夏凛さんや晴秋さん。星月先生に、水嶋先輩。颯斗、月子、翼。みんな思っていることだ」 ひとり足りない、とは一樹を見た。 「何だ、」 ニヤニヤと笑ってからかう一樹にプイと顔を逸らした。 「俺はに幸せになってもらいたいって思ってないからな」 一樹の言葉には悲しげに顔を上げた。どういうことだろうか... 「俺は、に幸せになってもらいたいんじゃなくて、を幸せにしたいんだ。が俺以外の誰かのお陰で幸せになってもらうのは、ちょっと面白くない」 不安そうに一樹を見上げていたの顔がジワジワと赤くなる。 それを見た一樹は声を上げて笑った。 「一樹さん!」 俯いて自分にギュッと抱きつくに一樹は優しく、だが力強く抱きしめた。 「お前は幸せになるんだから、親不孝なもんか」 「ずるいですよ、一樹さん」 「そうかー?」 とぼけた声で一樹が返す。 眠っているわけでもないのに、がいつもよりも温かい。 「おー、ぬくぬくだ」 笑いながら一樹がいい、再び空を見上げた。 一等星の多い冬の夜空にはダイヤモンドが輝く。 「、そろそろ部屋に戻ろうぜ。眠れないっていうんだったら、寝かせな...」 の顔を覗きこんでそんな悪戯心が口にしていた一樹の言葉が途中で止まる。 「ったく...」 はとっくに眠っていたようだ。 そりゃ、温くもなるな... を抱え上げた一樹はひとまず彼女を布団の中に寝かせて戸締りをした。 布団に戻ると、の体温で随分と温かくなっている。 「は寒くないのか?」 体の冷えた自分が隣に寝るとの体温を奪うことになる。 少し悩んだ一樹だったが、結局先ほどと同じようにを抱えるようにして眠ることにした。 「いい夢見ろよ」 の額に唇を落としてそう呟いた一樹も間もなく規則正しい寝息を立て始めた。 |
桜風
14.5.30
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