| 颯斗と月子にメールをして、翌日一樹は一旦自宅に帰った。 車を置いてくるためだ。 車でのマンションに行く時は、近くのコインパーキングに停めているのだが、遣わないで長い時間置くなら実家から公共交通機関で行ったほうが安い。 昼前に一旦自宅に帰った一樹は、3時過ぎにはのマンションに居た。 一樹がのマンションを訪ねたときには、彼女はなにやら課題を前にしていた。 「論文か?」 「もうちょっとで終わります」 そう言って筆記用具を仕舞う。 「気にしなくていいぞ。俺はゴロゴロしてるから」 一樹に言われて少し悩んだは彼の言葉に甘えることにした。 「俺も持って来れば良かったなー...」 一樹が呟く。 「今から取りに戻りますか?」 「いーや、面倒くさい」 何だかんだ言いながら卒なくこなしているのだろう。 一樹が必死に勉強をしている姿を見たことがない。 「そろそろ時間だぞー」 一樹に声を掛けられては顔を上げる。 外は暗くなっていた。 いつの間にか時間が経っていたのだ。 「ごめんなさい」 ちょっとのつもりだったのに、とが慌てる。 「いいって。終わったか?」 「はい。お陰さまで」 「んじゃ、出かけるとしますか」 そう言って一樹は立ち上がり、も支度を始める。 外出着に着替えて一樹に貰ったマフラーを巻いてドアの外で待つ彼の前に立った。 「良く似合ってるぞ」 満足そうに笑う一樹の首周りはのプレゼントしたマフラーが温めている。 待ち合わせ場所は、のマンションから直近の駅前だった。 颯斗の泊まっているホテルや月子の家からの交通機関を考えると一番いい場所だったのだ。 手を繋いで駅前に行くと人だかりがある。 「何だろう」と言いながらがぴょんぴょん跳んでいると「ありゃ颯斗だ」と一樹が呟く。 「え?!」 「困ってるようだな」 「大変!」 そう言ってはそのまま人ごみの中心に駆けて行った。 「おいおい」と一樹は苦笑する。 先ほどまでと繋いでいた手が寒い。ポケットにその手を突っ込むと「一樹会長!」と声を掛けられて振り返る。 「おお、月子か。久しぶり..でもないか」 そんな挨拶をして苦笑する。 「ちゃんは?」 「あそこの人ごみに突進してった」 少しだけ寂しそうに笑って言った一樹は人ごみを振り返った。 「颯斗くん!」 人ごみを押し分けるの姿が見えた。 「さん」 とても面倒だと思いつつも、待ち合わせ場所で時間もそろそろだからこの場を離れるわけにも行かず、仕方なく目の前の女性達の話に付き合っていたのだ。 付き合っていたといっても、どう贔屓目に見ても友好的ではないが、めげない彼女たちは中々根性がある。 「ほら、颯斗くん。向こうだよ」 の存在を見た彼女たちは、颯斗への興味を失ったのかさっさと解散していった。 「お誘いされてたの?」 「まあ、そんなところです。けど、助かりました。ありがとうございます。一樹会長は一緒ではないのですか?」 「一緒だよ。ほら」と振り返った先に見えたのは月子と楽しげに話をしている。 ズキンと胸が痛んだ。 「さん?」 少しの様子がおかしいと思った颯斗がそっと肩に手を載せる。 「大丈夫ですか?」 「うん、大丈夫。つっこちゃんも来てたんだね。ほら、行こう」 そう言って笑いながら見上げてきたの笑顔は、以前と変わらない。 一樹と月子の元へと足早に向かい、予約していた店に向かう。 和食中心の創作料理の店だ。 一樹曰く「颯斗は、米と味噌が恋しくなっているはずだ」とのこと。 が聞いてみると 「そうですね。ご飯を食べるとほっとしますよ」 と彼は頷いた。 一樹は酒を飲み、「来年にはお前らとも飲めるんだよな」と嬉しそうに呟いた。 「陽日先生がそういうの凄く楽しみにしそうですよね」 が言うと「あー、たしかに」と一樹が苦笑する。いつか杯を交わす日が来るかもしれない。 久しぶりの再会で話は尽きず、気がつくと日付が変わっていた。 「おい、月子。終電に間に合わないんじゃないか?!」 ふと時計に目を向けた一樹が慌てて言う。 「大変!どうしよう...」 「うちに泊まれば良いよ」 が言う。 「あー、そうか。月子、そうしろ。女性一人だと夜のタクシーも案外危険だ。颯斗は...」 「タクシーでホテルまで行きます。距離的にそんなに掛かりませんから」 最初からそのつもりだったのか、慌てずに颯斗が返した。 「一樹会長は?」 「たちを送って、桜士郎の部屋に転がり込むさ。というか、今日は最初からそういうつもりだったんだよ」 「白銀先輩、ですか?」 が首を傾げる。 「あいつんちは比較的ここから近いんだ。タクシーに乗っても家に帰るよりは安く済むからな」 そこでお開きとなり、一樹はと月子を送っていった。 |
桜風
14.6.13
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