Diamond ring 54





 バス停のベンチに腰掛けていると「さん」と声を掛けられて振り返る。

「颯斗くん」

「早いですね..って」

そう言って苦笑した。

の座っているベンチにはこのショッピングモールのテナントの袋が複数置いてある。

「時間があるとつい、ね」

肩を竦めて言う。

待ち合わせの時間までもう少しある。颯斗はの隣に腰を下ろした。



今日は星月学園に遊びに行くために待ち合わせている。

先日、みんなでご飯を食べに行った際にが提案したのだ。

「さっき一樹さんと話してたんだけどね、新学期が始まったら翼くんの陣中見舞いも兼ねて学園に遊びに行かない?」

「新学期が始まったら、って...」

「颯斗くんは、いつ向こうに戻るの?」

「9日の便で向かおうと思います」

「つっこちゃんは、いつから学校?」

「8日からだけど、午前で終わるよ。ちゃんは?」

「わたしは9日から」

「で、俺が午後イチまであるけど、車だから比較的早く学園には行けるはずだ。帰りは俺がみんなを送れば良いし」

8日。つまり、3学期の初日なら顔を出せそうなのだ。どうせ、放課後にならないと翼にあえないだろうから、夕方に学園に着けば問題ない。

「というか、一樹会長は運転免許を持ってるんですか?」

「ああ。も持ってるぞ」

颯斗と月子は驚いてを見る。

「誕生日が早いし」と短く答えた。

とはいえ。免許を取ったのは大学に入ってからだから誕生日は殆ど関係ない。

「琥太にぃは、たぶんダメって言わないだろうし。理事長が学園への立ち入りを許可してくれるんだからもんだいないよ」

「駐車場も一応頼んでくれ」

一樹が言う。

ダメなら車は街に停めてバスで行くと言う。

正月のうちに琥太郎に話をして駐車場も来客用のを使って良いと言ってもらえた。

皆に連絡をして、今日を迎えている。


月子は一度家に帰ってから待ち合わせ場所に来ると言っていた。

は時間があるので早めに出て、うっかり買い物に興じてしまったのだ。

「この荷物、どうされるんですか?」

「一樹さんにお願いして、車に乗せてもらえたらいいなぁ、と」

一樹がこのバス停で皆を拾って学園に向かうことになっている。

「立ち入ったことを聞いてみてもいいですか?」

「なに?」

颯斗が遠慮がちに問い、は首を傾げる。

「一樹会長とさんは、一緒に暮らしているのでしょうか」

「ううん。わたし、未だに生活費はお姉ちゃんに出してもらってるから」

どういうことだろう、と颯斗が首を傾げる。

「家賃も例外じゃないんだよね。例えば、一樹さんと一緒に暮らすことになったら引越しとかする必要があるでしょう?まあ2人で折半することになるだろうから、家賃は今よりも安くなるかもしれないけど、やっぱり勝手をするのはね。かといって、お姉ちゃんに許可を貰うのも、ね?」

苦笑して言うに、なるほどと颯斗は頷いた。

「それに、一樹さんが嫌がってるし」

「一樹会長が?!」

颯斗が声を上げる。意外すぎる。先日、皆でご飯を食べに行ったときも、一樹はずっとこっちが恥ずかしくなるくらい蕩けるような笑みを浮かべてを見ていた。

彼がを愛しくてたまらないと言うのが嫌と言うほど伝わってきた。

それなのに、一緒に生活するのを嫌がるとは...

「うん。自分はまだ半人前だからって」

驚いたが、理由を聞けばストンと納得した。一樹らしい。

寒いが、暫くそこで話し込んでいると月子がやってきて、やがて一樹が車でやってきた。

の荷物を見て一樹は苦笑した。

「これまた、買い込んだなぁ...」

「つい...」

まさしく「つい」で、は普段あまりこういう買い方をしないので、一樹としては新鮮で面白い。

トランクにの買い物を詰めて学園に向かった。


学校の入り口で警備員に声をかけると、彼は一樹たちを覚えており、琥太郎から話が行っていたので難なく通してくれた。

そして、駐車場に着くと「ぬいぬいだー!ホントに来た!!」と翼が駆けて来る。

?」

驚かせたいと話していたので、琥太郎にはちゃんと内緒にするようにお願いしていたのに、とは眉間に皺を寄せて「あ!」と声を上げる。

「どうした?」

「郁ちゃんだ!」

琥太郎に話をしたときに郁も星月家に遊びに来ていたし、そのとき翼への口止めは琥太郎にしかしていなかった。

「ねえ、翼くん」

「どうした、

翼が首を傾げる。

「わたしたちがここに来るのは誰から聞いた?」

「モジャ眼鏡から」

翼があっさり吐き、は「やっぱり」と小さく呟く。

「それはそうと。最初の会議は良いんですか?」

颯斗が話題を変えると「さっき終わったのだ」と翼が言う。

「もう?」

月子の問いに「うぬ!」と元気よく翼が頷いた。

しかし、よく考えれば今の生徒会は翼と、その後輩が会長選挙を経験しているので、準備などはわかっている。昨年のたちも会議が速く終わったことを思い出した。

「だから、ぬいぬいたちを待ってたんだ」

一樹の提案で、皆で早めの夕食をとり、屋上庭園へと向かった。

今日は快晴で、空には沢山の星が瞬いている。

「やっぱり、ここからならよく見えるね」

空を見上げてが言う。

「そうだね。ちゃん、最近星空見てる?」

「見上げるけど、あんまり見えないよね。この間、実家に帰ったときは沢山見たけど」

の実家を思い出す。

なるほど、星はよく見えただろう。

「つっこちゃんは課題で観測があるんじゃない?」

「今はまだ専門科目とってないし」

言われてみれば、自分もそうだ。大学1年目は教養科目と呼ばれる文理共通の単位を取ることが多い。

暫く5人で並んで星空を見上げた。

2年前には当たり前だった。今は皆でスケジュールをあわせなくては実現しない状況。

不思議だな、と思う。

来年は益々難しくなるのだろう。先ほど聞いた翼の進路は海外留学だった。

早く大人になりたかったけど、大人になると寂しくもなる。

「上手くいかないなー」

は小さく呟いた。









桜風
14.6.20


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