Diamond ring 55





 「なあ、。誕生日、何が欲しい?」

腕の中のに声をかける。

もぞりと動いたは慌てて「あ!」と体を起こす。

「おお、どうした」

驚いた一樹が問うと、

「忘れてた!」

と彼女が声を上げる。

「どうした?」

「一樹さん、わたしの誕生日、暇ですか?」

彼女の誕生日に暇というのはどうだろう...

「そりゃ、の誕生日を祝うつもりで予定は空けてるぞ」

一樹がいうと彼女はほっと息を吐く。

「何だ、。俺は自分の彼女の誕生日をすっぽかすような薄情な彼氏じゃないぞ。仕方ない、俺がどれだけを愛しているかもう一度行動で示すこととしようか」

そう言って彼女に覆い被さると

「や、わかってます!大丈夫です!凄く伝わってきてます!!」

と慌てて止められた。

一樹は苦笑して、先ほどと同じ体勢に戻り、

「で?誕生日に何かあるのか?」

と問い返す。

一樹が思い直してくれたことに安堵したは理由を話した。

「去年が両親の13回忌で星月の家と、お姉ちゃんとお兄ちゃんで法要をしたんですけど。今年はわたしの二十歳の誕生日だからその報告を兼ねて、法要をしようってなったみたいなんです。で、お姉ちゃんが、『小鳥遊、連れてくるからは一樹連れてきてね』って」

「あ...」と一樹は声を零した。

すっかり失念していた。

の誕生日は両親の命日でもあるのだ。

自分が星月学園に在学している時には、の誕生日を全力でお祝いしに彼女の姉兄がやってきていたから、お祝いしか頭になかったが、彼女の誕生日はそういう日なのだ。

「俺が行ってもいいのか?」

「良いと思います。お姉ちゃんが良いって言ってるから」

彼女の発言権は容易に想像できたので「わかった」と一樹は頷いた。


の誕生日の当日、彼女のマンションの前でと一樹が共に待っていると車がやってきた。

ー、おはよー」

窓を開けて上機嫌の夏凛が手を振る。

「お姉ちゃん、おはよう」

「おはようございます」

一樹が挨拶すると、「ああ、おはよ」と適当に返された。

「姉ちゃん、本気交代して」

「やよ」

運転席の晴秋が唸っている。

「じゃあ、わたしが!」

が立候補する。

いや、この車の大きさだとの身長では...

一樹は言葉に出さないが、そんなことを思っていた。

「ははっ、ちゃんは小さすぎて運転席に座ってもハンドルで前が見えないよ」

爽やかにに酷いことを言う声が聞こえてきた。

「僕が変わるよ」と言って助手席から出てきたのは小鳥遊だった。

遠慮のない指摘には酷く傷ついているようだった。

「小鳥遊」

夏凛が窘めるような低い声で名を呼ぶ。

しかし、彼はそれには特に反応を見せずに運転席に納まった。

「アキは助手席ね」

「姉ちゃん前に座ってくれよ」

後ろの方がゆったりしているのだ。

「やよ。は後ろなんだから、あたしも後ろに決まってるじゃん」

「あの、俺が前に...」

居た溜まれずに一樹が言うと

「だめ。アキは体格が良すぎて狭くなる」

と夏凛が容赦ない。

晴秋は溜息を吐き、助手席に乗る。

と一樹は後部座席に座り、車が走り出した。


「晴秋さん、お疲れですね」

「今朝、こっちに着いたからなー」

そう返す晴秋は眠そうだ。

「俺がナビしますから」と一樹が言うと「あ、そうか。お前、行った事あるもんな」と返された。

「ええ、ですから」

「んじゃ、頼む」

そう言ってすぐに晴秋の寝息が聞こえてきた。

「夏凛ちゃん、晴秋君かわいそうだよー」

苦笑しながら小鳥遊が言う。

「いいのよ、大丈夫。丈夫に作られてるから」

夏凛はそんなことを返している。

暫く車が走り、やがての実家に着いた。

以前来たときと印象が少し違う。

周囲を見渡してふと気付いた。

住宅の建設や、道路の整備が行われているようだ。

まだの家のほうはそうでもないが、駅前の発展が著しかった。


「ただいまー」とが玄関のドアを開けると奥から出てきたのは郁だった。

「郁ちゃん?!」

「久しぶりだね、。あ、そうでもないか。天羽君の卒業式、来てたもんね」

「何で郁ちゃんがいるの?!」

「僕も、のおじさんとおばさんにはお世話になったことあるし。丁度土日だからね」

と言う。

後から入ってきた姉を見ると

「ああ、ガキんちょの郁と有李はうちに遊びに来たことあるよ。夏休みとか泊まったり」

と初めて聞くことを言われた。

「しらなかった!」

が言うと

「そりゃ、はまだ4歳とか5歳とかのときだから覚えてなくても可笑しくないでしょう」

と夏凛がいい、家に上がる。

「あ、どうぞ」

一樹と小鳥遊を促しても家に上がる。

「お久しぶりです」と一樹が挨拶をすると郁は苦笑した。

「残念だったね、誕生日にを独占できなくて」

とからかわれて一樹は少しばつが悪そうに笑った。









桜風
14.6.27


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