| 部屋の中には一升瓶がゴロゴロ転がっている。 そして、寝息がひとつ。 食事を始め、は生まれて初めて酒を飲むことになった。 さすがに、最初から夏凛や晴秋が飲むような強い酒を飲ませるわけにはいかず、彼女たちにとってみれば『ジュース』のようなアルコール度数の少ない酒を買ってきてた。 「あたし、と飲むのが楽しみだったのよー」 そう言ってのグラスに注ぐ。 「いただきます」の代わりに皆がの誕生日を祝う言葉を口にした。 「いただきます!」 高らかに宣言してはそのグラスを傾け、そして、「きゅー...」と言いながらふらぁと背後に倒れた。 「?!」 隣に座っていた一樹が慌てて体を支えたため、何とか畳に後頭部を直撃という事態は避けられた。 少し沈黙が降り、夏凛が声を上げて笑い始める。 「やっぱ、父さん似かぁ...」 「まあ、オレらが母親似だったからひとりくらいは似ないと」 と晴秋も笑う。 「けど、順番を失敗したわね」と琥雪が呟いた。 「順番?」 琥太郎が聞き返した。 「だって、ちゃんが寝ちゃったらケーキ、切れないわ」 またしても沈黙。 「ま、明日でも良いと思いますよ。こんなジュースだとすぐに起きるかもしれないし」 「お夕飯も一口も...」 確かに。 「まあ、ほら。起きたら温めてやりますから」 と晴秋。 「そうだね。とりあえず、みんな食事を楽しもうか」 幸之助が言い、皆は箸を進めた。 「俺、部屋に運んでおきますね」と一樹がを抱え上げると「ちょい待ち」と夏凛が止める。 「すぐに目を覚ますかもしれないから、ここに寝かせておこう。琥雪さん、良いですよね?」 「お布団とってくるわねー」 「オレ行きますから」 立ち上がろうとした琥雪を制して晴秋が立ち上がり、の部屋に向かった。 食事をひとまず終えたが、は起きる気配がない。 皆は風呂を済ませて酒盛りの二次会を始める者たちは二次会に突入している。 結局、は晴秋が布団ごと部屋に運んだ。 だけなら一樹でも平気だが、布団ごととなると少し心許ない。 「...なんだ?」 自分を見ている一樹に晴秋は眉間に皺を寄せて言う。正確には、自分の『腕』を見ているだ。 「や、何かちょっと悔しかったんで」 「布団ごと運ぶような機会なんて滅多にないわよ」 カラカラと笑って夏凛が言う。今日は機嫌が良いようだ。 しかし... 一樹は周囲を見渡す。 転がっている一升瓶の数が半端ない。この人数でこれだけ瓶が空くことに非常に驚いている。 「あっちのペースにあわせるとすぐに潰れるよ」 郁が忠告する。 「ええ。前にそれをやって潰されました」 一樹が言うと郁は苦笑した。 「やっちゃったことあるんだ?」 「はい。といっても、相手は小鳥遊さんなんですけどね」 「小鳥遊さんでもかなりの酒豪だよ?夏姉に引けを取らない」 「まあ、お陰で飲み方を覚えたってところですね」 苦笑して一樹が言った。「高い授業料だったね」と郁に言われて「ええ」と頷く。 「そういえば、不知火君って法学部だったっけ?」 郁が確認し、「ええ」と一樹が頷いた。 「今、一人暮らし?」 「実家から通ってます。1年のときに留学しましたから。部屋を借りるのがもったいないなって思って。で、そのまま楽だからズルズルと...保護者が干渉してこないので、甘えてます」 家に嫌な思い出などがなければそういう選択はあるか、と郁は何となく納得した。 「と一緒に住まないの?夏姉がちょっと怖いけど」 からかうように郁が言い、一樹は苦笑を漏らした。 「今、家を出ても結局経済的には保護者を頼ることになし。それで自分の好きに生活するのはおかしいと思っているので、自分が経済的に独立できたら、と考えています」 「嫌になるほどしっかりしてるね」 呆れたように郁が呟いた。 「法学部..弁護士?」 「ええ、まあ...」 「じゃあ、他の学部の人よりも少し時間が掛かるんじゃないの?その間、は大丈夫かな?」 「...ヤなこと言わないでください」 半眼になって一樹が言う。 その反応に満足した郁は一樹に絡むのをやめた。 周囲を見渡せば琥太郎がいない。彼も極端に酒に弱いと言っていたので、この部屋に充満するアルコールの匂いから逃げたのかもしれない。 一樹も休ませてもらおうと思い、幸之助に声をかけて部屋を後にした。 「あ、逃げた」と夏凛が呟く。 「絡んでやろうと思ったのに...!」と晴秋。 「人間の生存本能ってヤツかもね」 小鳥遊がポツリと呟き、「そうですねー」と郁が同意した。 |
桜風
14.7.18
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