| カタン、と廊下で音がしたような気がして一樹は体を起こす。 星月夫妻は仏間で寝ており、聞いた話だとと同室で夏凛が寝て、夏凛の部屋に琥春。晴秋と小鳥遊が同室だそうだ。 というわけで、一樹は琥太郎と郁と客間で寝ている。 一樹はそっと布団を抜け出して廊下に出ると玄関に人影があった。 「?」 覗うように名を呼ぶと「一樹さん?」と返事がある。 「どうした、夜中だぞ?」 寧ろ朝方かもしれない。 「目が冴えちゃったので散歩に」 いたずらが見つかった子供のように少し小さくなってが言う。 「じゃあ、俺も付き合うよ」 そう言って一樹は靴を履いた。 「ジャージでも良いよな?」 「あの、でも...」 「ほら、散歩だろ。行くぞ」 そう言ってそっと玄関のドアを開けた。 あ、携帯忘れた... 「、携帯持ってるか?」 「はい」 なら、良いか。 行方不明になったら心配するだろうが、連絡手段があるなら大ごとにはならないだろう。 「人生初の酒はどうだった?」 「まったく味を覚えていないんですけど...」 しょんぼりと言う。 「の予想通りだったな」と一樹が笑う。 「予想ですか?」 「お父さんと似ているかもって言ってなかったか?」 言ったかも、とは頷く。 しばらく気の向くままにてくてくと歩いた。 しっかりとこの風景を目に焼き付けるかのようには景色を眺めている。 「昔は、もっと暗かったはずなんですよね。こんなに外灯はなかったな...」 が呟く。 まだ日が昇っていないので、外灯に明かりが灯っている。 「真っ暗で、けどそれが普通だったから怖くなかったんですよ。星月学園に入ってあの暗さが何だか懐かしかったな。と言っても、学園内にかなり外灯がありましたから、昔ほどじゃないなとは思ってましたけど」 「俺がもっと大人だったら、って思ったよ」 不意に一樹が言う。 「はい?」 は足を止めて彼を見上げた。 「昨日の..夏凛さんたちの話、聞いてたんだ」 何の話か分かったは寂しげに笑う。 「わたしのせいで、お姉ちゃん達に凄く負担かけてしまってたから」 の言葉に一樹は苦笑する。 「夏凛さんが聞いたら、心外だっていうかもな」 その言葉に、きょとんと一樹を見上げた。 「夏凛さんは人のせいにする人じゃない。たまに、理不尽な事を言ってるけど、自分の選択を他人の存在のせいにはしない。それは、俺があの人を尊敬しているところだよ。カッコイイと思ってる」 「お姉ちゃんはかっこいいです。その通りですよ」 そんなことを言われて驚き、を見下ろせばどうにも彼女は拗ねているようで、一樹は吹き出した。 「お前、夏凛さんにやきもちやいてるのか?!」 「やいてません!」 ムキになるの頭をポンポンと優しく宥めるように叩いた一樹は空を見上げた。 「俺がとっくに一人前だったら、夏凛さんと晴秋さんからあの家の管理を引き継がせてもらえたかもしれない」 一樹の言葉は意外で、は目を丸くして彼を見上げた。 「夏凛さんや晴秋さんは仕事のことを考えるとあそこに住むのが難しい。だから、手放すことを選ばれたんだろうけど、俺が弁護士になっていればあそこに住んで仕事ができたはずだ。けど、今の俺がそこに辿り着くまでにはまだまだ時間が掛かる」 一樹が少しだけ寂しげに言う。 は一樹の手をくいっと引いた。 「何だ?」 「けど、一樹さんが、今弁護士さんだったら、わたしは一樹さんと出会ってませんよ?」 「んー、そうか。そうなるな」 「それに、わたしは一樹さんに会えたことのほうが嬉しいです。あの家がなくなるのは、寂しいですけど。思い出はちゃんと星になってこの胸の中で輝いています」 そう言っては自分の胸の中心あたりを両手でそっと包み込む。 「そうか」と一樹は呟く。 そうだった。自分よりも遥かにの方が心が強かった。 「お姉ちゃん、今年で引退するって言ってました」 不意にが言う。 「ああ、そうらしいな」 「小鳥遊さんと..結婚しちゃうのかな?」 覗うようにが一樹を見上げた。 「そうなんじゃないのか?」 「わたしが寝てるうちにそんな話にならなかったんですか?」 「ああ、ずっと酒を飲んでた」 そういえば、そんな話が出てこなかったな、と一樹は今更思う。 「じゃあ、今日かな?」 一樹はじっとを見下ろした。 「寂しいか?」 そう聞かれては睫を伏せて微笑んだ。 山の稜線が輝き始める頃、2人は家路に着く。 「ただいま」とが言うと琥雪が顔を出して「あら?」と笑った。 「散歩に行ってたの?」 「はい」 「お腹空いたでしょう?」 「はい!」 夕飯を食べていなかったは元気良く返事をした。 「とりあえず、ちゃんはシャワーを浴びてらっしゃい」 琥雪に言われては素直な返事をして自室に駆け上がっていった。 |
桜風
14.7.25
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