Diamond ring 61





 ちゃん!」

待ち合わせ場所のバス停で待っていると声を掛けられて振り返る。

「つっこちゃん!!」

手を振ると駆けていた彼女はさらに早く駆けての元へとやってきた。

「ドキドキするね」

「でも、ちょっと楽しみだね」

2人は額を寄せてクスクスと笑った。


明日から星月学園の2学期が始まる。

つまり、教育実習も始まるのだ。

教育学部のはどこの学校で教育実習を受けさせてもらおうかと悩んでいたが、月子が教員免許を取るために星月学園で教育実習を受けたいと言っていたので、それに便乗することにした。

4月上旬に学園へ挨拶に行くと「もしかしたら、断ることになるかもしれない」と琥太郎に言われてドキドキしながら返事を待ち、6月のうちにと月子の両方に受諾の返事があった。

月子は星にまつわる専門的な知識を必要とする教科の免許だから星月学園がぴったりだが、は一般教科のため、別の学校を紹介される可能性が高いと思っていた。

しかし、夏凛の結婚式で顔を合わせた琥太郎が言うには、逆に専門教科の教員志望の受け入れの方が難しいと言う。

「指導できる教員の数に限りがあるだろう?」

と言うことらしい。

一般教科で星月学園の教育実習を考える者は意外と少ないそうだ。

「だから、本当はは早々に結果は決まってたんだがな。だけ返事があって夜久には返事をしないのは、やっぱり答えが出ていないのに夜久はがっかりするだろう?」

と言われては頷いた。


バスに揺られて30分。

懐かしい学び舎を見上げた。

明日から2学期と言うこともあり、生徒も全員学園に戻ってきているようで、挨拶に行く職員室までの道のりで好奇の目を向けられた。
これまた懐かしいものだ。

「失礼します」と職員室に入ると、「おー!よく来たなーーー!!」と元気に迎え入れてくれたのは陽日だった。職員室の中には陽日と郁しかいない。他の教員はどこにいるのだろうか...

「お久しぶりです、陽日先生」

「2人とも立派になって...!」

といきなり感極まる陽日に少し驚いていると

「久しぶりだね、月子ちゃん」

とこの学園の教員となっている郁が声をかけてきた。

「わたしもいる!」

が主張する。

「だって、は全然久しぶりじゃないじゃないか」

と肩を竦めていわれた。

確かに、ひと月くらい前に会ったばかりだ。

「あ、そうだ。郁ちゃんにお姉ちゃんから新婚旅行のお土産預かってきてる」

「何?」

「お酒だと思う。少なくとも、液体。重かったー!」

「あとで取りにいく」

「琥太郎先生に挨拶してきたか?」

陽日に言われて「まだです」と答えると「琥太にぃは今は理事長室。丁度良いんじゃない?」と郁が言う。

「他の先生方は?」

「2学期の準備とか、明日の始業式の準備だとか色々で職員室を空けてるだけ。琥太にぃに挨拶に行った後に戻ってきたら誰かしらいるかもよ」

郁にそういわれて、荷物を置かせてもらって理事長室へと向かうことにした。


「そういえば、一樹会長は元気?」

階段を昇りながら月子が問う。

「あー、うん。元気...」

今は落ち込んでるかもしれないけど、と心の中で付け足しては頷いた。

が教員を目指しているのは知っているし、それには教育実習が必要なのも一樹は充分理解している。

しかし、の実習先が星月学園ということが些か、いや、かなり面白くなかったらしい。

琥太郎から聞いた話によると未だに女子の入学は、と月子以来なく、結局男子校状態だとか。

教員にも女性が居ないので、自分が在学していた頃と状況は変わらず、非常に心配の種であったようだ。

自分が卒業した後は、颯斗がいたし、自分の存在を知る生徒のほうが多かったから多少の安心感はあった。

しかし、今度はどうだ?

「3ヶ月もあるんだぞ?」

「そうですねぇ...」

教育実習なんてものは普通、長くてひと月ではないのか?!

それなのに、あの学園は3ヶ月も教育実習のカリキュラムを組んでいる。

場合によっては、修学旅行まで行くのだ。

ああ、心配だ...

を信じていないわけではない。だが、それとこれとは話が別だ。

しかし、そんな心配性な一樹をが一喝してそれ以降実は連絡を取っていない。

月子に話すと彼女は苦笑した。

「一樹会長、本当にちゃんの事が好きなのね」

「それは、嬉しいけど...わたし子供じゃないのよ?終いには『飴を貰って、ついて行くんじゃないか心配だ』っていうのよ?!」

の憤りにもわからないでもないが、あの一樹の変貌振りの方が月子には衝撃的ではあった。

何度か2人が一緒にいる様子を見ているが、そこまでとは思っていなかった。

「いいなぁ...」

ポツリと月子が呟く。

「つっこちゃん?」

「ううん、何でもない。けど、仲直りは早いほうがいいよ」

そんなことを言われては「はい」と神妙に頷いた。









桜風
14.8.8


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