Diamond ring 63





 実習が始まって2週間。

もっと大変かと思ったが、意外とそうでもない。

も月子もケロリとしている。

「もっと大変かと思ってた」

寮に帰りながらが言うと「だよね」と月子も返す。

勿論、自分が実習生として教鞭をとるようになったら、授業計画だとかそういうのを考えるのに大変かもしれないが、今のところ、指導教員の授業の準備の手伝いとか、部活の顧問の手伝いなどはそんなに負担に思わない。その日のレポートもそんなに大変に思っていないのだ。

は生徒会顧問の手伝いをしているし、月子は弓道部の顧問の手伝いをしている。

生徒会顧問と言っても、実質動いているのは生徒だし、楽なものだなとは思っていた。


と月子ちゃんだけかな?」

保健室でコーヒーを飲みながら郁が言う。

「どうした、郁」

「2週間の実習期間を終えて、平気そうな顔をしている子。他の実習生、逃げたいって顔をしてるよ」

言われてみればそうだな、と廊下をすれ違うたち以外の実習生の顔を思い浮かべる。

確かに、寝不足や疲れが顔に出ている者が多い。

「あの2人は不知火の生徒会で学園内を駆け回っていたからな」

そう言って懐かしそうに琥太郎は目を細めた。

「月子ちゃんは何でも全力だったみたいだしね。今でも、勿論、全力だけど」

月子の指導を担当している郁が苦笑して言う。

もう少ししたら彼女たちが教鞭をとることになるから、そうなると全力の月子は大変かもしれない。

は、意外と上手だろうからね」

「どうだろうな」と郁の言葉に琥太郎が返す。

も大変になるかな?」

「簡単にこなされても困るだろう?」

おどけて言う琥太郎に「だよねー」と郁が頷いた。

「けど、2人とも2年の担当だから修学旅行も一緒だよね?」

「そうなるな」

は、神話科だから例の研究発表にもついていくんだよね」

「今、その発表の準備を手伝ってると聞いたが?」

琥太郎がチラッと郁を見る。何を言いたいのだろうか。

「...不知火君、心配だろうねー」

郁の言葉に思わず噴出し、

「郁、目が笑ってるぞ」

と琥太郎が指摘する。

「琥太にぃこそ」

そう返されて琥太郎は顔を逸らした。


実際、一樹は郁たちの予想通り物凄く心配していた。

に2年神話科の担当になったと聞いたときに彼女が2年生だったときの2学期のスケジュールを思い出し、諸々の行事が浮かんだ。

研究発表は毎年開催地が違うと言っていたが、が3年のときが地元だったような気がする。

つまり、今回は遠出になるのだ。

2年といえば修学旅行もあるし。

物凄く面白くない。

お陰で勉強が捗らないと思ったが、それを理由にするのはお門違いなのでそこはきちんと続けている。

しかし、そうは言っても約ひと月の顔を見ていない。

真っ赤になるのが可愛くて、時々わざと彼女が恥ずかしくなるような甘い言葉を囁いているが、電話越しでは表情が見えないので面白くない。

自室で机に着いて勉強をしていたが、のことを考え始めてしまったお陰で、手が、頭が動かなくなってしまった。

ベッドに寝転んで天井を見上げた。

「なー、。お前もこんな気持ちだったのかぁ?」

自分は3度、長期で日本を離れた。

大学に入ってすぐに1年間の留学をして、昨年の春休みと夏休みには海外を放浪した。

『世界を見たい』という自分の気持ちに正直に行動をした結果、には寂しい思いをさせてしまったのだ。

寂しい思いをさせてしまっただろうという自覚はあるが、正直、今思えば彼女の気持ちはそこまで汲めてなかった。

同じ日本に居て、その気になれば会いにいける距離の今の状態で、自分はこんな思いをしているのだ。

彼女が自分のために時間を作ろうと努力してくれているのは分っているが、それも中々うまく行かない。

10月は文化祭があるから、そのときにやっと会えるくらいかもしれないな...

毎日電話はしているが、やはり物足りない。

「早く11月終わんないかなー...」

それはそれで自分の勉強の進捗状況から考えて拙いとは思うが、やっぱりいつでもに会いたい...

「早く一人前になりたいな」

呟いた一樹は体を起こして机に着く。

そのために、今できることに手を抜くわけには行かないと気付いたから。









桜風
14.8.22


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